日本の旬・魚のお話

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日本の旬・魚のお話
日本の旬   魚のお話(夏の魚-8)
鮭(さけ)
通常標準和名の「サケ」と呼んでいるのは「シロザケ」のことである。
北海道沿岸の川には9月頃から、本州には11〜12月頃を中心に産卵のために遡上して来るものを「アキアジ」とも呼ぶ。特に、岩手県の南部に帰ってくるオスは吻部が長く突き出て曲っていることから、「南部の鼻曲り」として有名。
また、5〜6月の初夏に現れるものを「時シラズ」と言い、脂も乗って肉質は紅色で柔らかく美味である。
北海道や東北地方では、自然の恵みに感謝したサケの民話が数多くある。色々な食べ方があり、サケの皮を衣服や靴などに加工するなど、古来から生活になくてはならない神の魚である。
                  みちのくの 鮭は醜し 吾もみちのく     山口 青邨
命名
「鮭」と書くが、その由来は「裂」からきていると言われている。『日本釈名』に、「サケは裂なり、其の肉片裂け易し、他の魚に変はれり」とある。
『和訓栞』には、「サケは裂の義、その肉、片々裂け易し」と記されている。また、アイヌ語で夏の食べ物を表すサクイベや、乾魚を表すサツトカムが語源という説もある。
マスの語源は「マスホ(真赤)」で、身肉の色からきている言葉。
地方名
アキアジ(北海道・東北)、オオスケ(北海道・東北)、ピン(北海道・東北)、オオナマコ(岩手・宮城)、サケノイオ(富山・石川)、トキシラズ(一般)など。
北海道では他にも、小型サイズのサケを表すピンコ、産卵を終えたサケを表すホッチャレ、北海道の東側付近に近づくサケを表すメジカなど、状態や形状を表す呼び名がある。
英名 Chum salmon & Dog salmon
サケとマスの違い
サケとマスは大変やっかいな言葉で、分類学上「マス科」は存在しないのである。
我国では近年まで、白サケのみを標準和名の「サケ」と呼び、その他のサケを「マス」と呼んできた。銀ザケや紅ザケを銀マスや紅マスと呼び、現在でもサクラマスやサツキマスにはマスが使われ、キングサーモンはマスノスケとも呼ばれている。
また、「ホンマス」と呼ばれるものは、その地方で多く獲れるサケを云い、例えば北海道や東北の西部ではサクラマスの降海したもの、北海道の東部ではカラフトマスを指す。
英語では河川で生活するサケの仲間をトラウト(Trout)、海へ降って生活するものをサーモン(Salmon)と使い分けている。
Salmonとは跳躍を意味する言葉である。
サケ目サケ科サケ属サケ
サケを分類する方法は数多くあり、その一つであるネルソンの分類体系によると、世界で11属66種に分類される。
日本で分布すものは以下の4属である。
   1.イトウ属・・・・イトウ
   2.イワナ属 ・・・イワナ・オショロコマ・アメマス・カワマス
   3.サルモ属・・・タイセイヨウサケ・ブラウントラウト(いずれも外来種)
   4.サケ属・・・・・以下の下線は日本に分布するサケ。
       A.サケ
       B.サクラマス・・・・ヤマメ(サクラマス)・アマゴ(サツキマス)・ビワマス
       C.カラフトマス
       D.ニジマス(スチールヘッドトラウト)・・・アメリカよりの外来種で、従来の分類ではサルモ属に属していた
                                が、1989年以降変更された。
       E.ギンザケ・・・・北海道東部にわずかに回遊する。
       F.ベニザケ・・・・      同上。
       G.マスノスケ
       H.カットスロートトラウト

    ベニサケ
      湖に注ぐ川で産卵し、湖で1年を過ごしてから川を下る。斃死した親が湖に流れてきて、分解されてプランク
      トンの餌になり、そのプランクトンを稚魚が食べて成長するという。親が子の成長を死んでまでも見守ってい
      るのであろう。
      ベニサケは湖の無いところには遡上しないため、我国にはやってこない。また、サケよりも北方の水温の低
      い海域で生息するため、身肉の脂肪含量も高く、よってサケより美味である。
サケ属の見分け方
1.イトウ属とその他の属とでは、頭部背面が平相か丸みを帯びているかで分ける。
2.その他のサケ属は、上顎の歯を構成する前鋤骨(せんじょうこつ)と口蓋骨(こうがいこつ)の形から分け、M字型が
  イワナ属で、T字型がサルモ属、そして小Y型がサケ属。
3.サケの成魚はヒレやエラの形、斑点のつき方、消化管の形で見分ける。
4.サケの幼魚は、淡水生活の長いサクラマスやマスノスケは明瞭な大型の斑点であるパーマークを持つが、産卵床
  から出てすぐに降海するカラフトマスはそれを持たない。また、湖でしばらく生活する紅サケは、動物プランクトンを
  濾して食べるため、エラにある鰓耙(さいは)が多く見られる。
サケ科の形態的特徴
1.全てのヒレに硬い棘を持たないこと。
2.背ビレは体の中央付近にあり、その下方に腹ビレがあること。
3.背ビレの後方に、鰭条(きじょう)のない脂ビレと呼ばれる小さなヒレがある。
4.頭は大きく、全長の4分の1から5分の1を占め、成魚のオスは特に大きい。
5.多くの細長い魚では脊椎骨が尾部で多く、腹部の内臓を包んで保護する腹椎(ふくつい)が少ないのであるが、サケ
  科はその逆である。
分布
サケ科魚類は、200万年前の新生代第三紀の頃に、氷河の雪解け水の様な冷水域に誕生した。その後、繰り返された地殻変動や氷河期を乗り越え、幾多の種に分化していった。
北千島やカムチャッカ及びアラスカに多い群と、初夏に北海道東方海域や東北地方に来遊するトキシラズ、秋から冬に北海道や本州の川に遡上する秋ザケの3系統がある。
北洋に広く分布し、その南限は利根川、山口県沖、朝鮮半島南端に及ぶ。
産卵
秋から冬にかけて川に遡る。この川はかつて自分の生まれた川なので、「母川回帰」といわれる。
メスが礫床に直径1m前後のすり鉢状の産卵床を掘るが、オスが掘ることはなく、メスの側にいて近づく他のオスを激しく追う。攻撃は、高さのある体の側面の誇示に始まり、やがて大きく曲った口と鋭い歯で互いにかみ合う。
サケ科のいずれの種も、海洋生活時の歯は唇に埋没しており、先端の端がわずかに出ているだけで、餌の保持にはあまり役立っていない。しかし、成熟して婚姻色が出る頃になると、顎骨が伸びて唇が退化し、歯が顕著に突出する様になる。この特徴は、特にオスで顕著に表れる。
温度と日数をかけたものを度日という単位で表し、サケの受精卵は480度日で孵化する。つまり、8℃なら60日、6℃なら80日で孵化する。さらに440度日で浮上する。
成長
浮上直後の稚魚はパーマークと呼ばれる斑点が出現するが、直ちに消失し、同時に降海して沿岸で小型の動物性プランクトンを食べる。体長8cmほどになると離沿して北洋を回遊し、沖アミやイカ類の稚仔、中型のプランクトンを食べ、成熟すると翌年から数年後に母川へ回帰する。
体長35mm、体重400mgの浮上稚魚が、2年半後に70cm、3kgの大きさで回帰するのが平均的なサケの成長サイクル。体長で20倍、重量で7500倍の成長量。給餌放流の場合は50mm、1gほどまで管理する。
オスは2年魚で50cmの1kg、5年で90cmの10kg、メスは3年で65cmの3kg、5年で80cmの7kgとなる。
シロサケは淡水域のみでは成熟出来ないこと、また、受精から降海まで約半年、母川回帰まで2年半〜4年半かかることから、海洋依存度が高い種であると思われる。
漁法と肉質(美味しさ)の変化
回帰する親魚は、1970年頃は2万トン、80年には10万トン、90年には17万トンと増加するのに対し、かつて10万トン近くあった北洋母船式サケマス流網漁での漁獲高が、漁獲規制などで1992年の2万トンを最後に無くなってしまった。
肉質の経済価値は、かつて北洋上でとれた沖合物が高く、遡上期には急激に低下する。これは、親魚が一度成熟回遊に向かうとほとんど餌を取らなくなるという、サケの生態的特性によるものである。従って、沖取りのサケは高値で、遡上した秋サケは敬遠されがちとなる。但し、初夏に沿岸で獲れるトキシラズは、盛んに攝餌しているので肉質は優れており、珍重される。
この様に、成熟回遊時期のサケは餌をほとんど取らず、それまでカニやエビを食べて肉に蓄えていたカロチノイドという赤い色素を体内で移行させる。オスは婚姻色の赤紫色の模様を体表に現してギン化からブナ化し、メスは卵巣に色素や栄養を移して身肉の色が白っぽくパサパサしていく。
栽培漁業
最近の放流尾数と漁獲尾数は、1970年に7.7億尾の460万尾、80年に18.9億尾の3000万尾、90年に20.5億尾の6000万尾。
回帰率は70年に1.3%、80年に2.7%、90年に2.9%と確実に上昇している。
この様に生産性が向上した大きな理由として、0.4gの稚魚を1gまで大きくして放流する「給餌放流方式」の結果、捕食者による食害が減少したことと、プランクトンの発生好機に放流を行うことができる時期調節があげられるほか、母船式サケマス漁獲が80年代から除々に減少したことも回帰率向上につながったと考えられている。
一方で親魚の小型化が目立つ様になったのは、放流の拡大により、サケの密度が高まった結果と考察される。
従って、生態系のバランス上、これ以上の放流は限界かもしれない。
森を育てるサケ
海水中にある窒素15は、木の成長にとっても大事な栄養素である。川に遡上したサケがクマの餌になり、クマによって森に運ばれ、サケの死体が木に栄養をもたらすので、サケが多く遡上した翌年は木が育つと言われている。1頭のクマは700尾のサケを食べるという。
ルイベ
アイヌ語で「溶ける食べ物」という意味。アイヌ民族は生サケを厳寒の戸外で凍らせて保存し、それを囲炉裏の火で炙(あぶ)りながらスライスして食べたのだろう。凍ったサケの身が舌の上でとろける味は、また格別なものがある。
鮭の身肉に存在するアニサキスという寄生虫は、マイナス20℃以下に凍結されれば斃死するので、安心して食べられる。
主産地信州
長野県更埴(こうしょく)市の山懐に、東日本最大級と言われる森将軍塚がある。古墳時代にこれだけ巨大な物を作る事が出来た経済力の背景には、全国有数のサケ漁獲量があったと推測されている。
平安時代に律令の実施細目をまとめた『延喜式』によると、新潟や富山と並び、善光寺平は朝廷にサケを貢納した主産地であった。
明治10年になると、加賀藩生まれの関沢明清がアメリカで学んだサケの孵化放流を始めた。これは瞬く間に全国に広がり、明治12年には長野県でも天竜川や千曲川、犀川で放流が行われた。
千数百年に渡ってサケの主産地であった信州からサケが消えたのは、1936年(S11)に飯山市に西大滝ダムが出来てからである。
食べ方
北海道産のギンケ(海水海域で漁獲されたもので体色は青みがかった銀色)の物は生食用に、ブナケの物は塩漬けや燻製にして一般的に利用される。
ルイベ(刺身)にして食べるには、サケを柵にしてラップをかけ、3日以上冷凍にしてから半解凍して、ポン酢や紅葉おろしで食べる。
生の切身は、塩焼き、照り焼き、ムニエル、ホイル焼き、酒ワイン蒸、ステーキ、フライ、味噌漬け、粕漬けなど何でも利用出来る。
カマ(頭部)は、焼いたり鍋物の具にするほか、頭の先の「氷頭(ひず)」という軟骨を酢漬けや松前漬けにする。皮はこんがりと焼いてお茶漬けにし、白子は酢の物や鍋に、背ワタ(腎臓)や胃腸は「メフン」などの塩辛となる。
ハツ(心臓)やキモ(肝臓)は血などを洗い流して塩、胡椒、酒をふり、ホイル焼きにして醤油をかけて食べる。
   イクラ・・・ロシア語で「魚の卵」をいう。筋子は未成熟卵の卵巣ごと塩漬けにしたものに対し、イクラは成熟卵の卵
         巣膜を破って一粒一粒を塩漬けしたもの。
         サケの卵巣を、ぬるま湯の濃い塩水に10分ぐらい漬けるとイクラになる。それに酒とミリンを加えた醤油
         に漬け込むものは北海道風で、生臭みも和らいで日保ちもよい。それにそぎ切りにした生の身肉を一緒
         に漬込むと紅葉漬となる。
   チャンチャン焼き
      ・・・・二枚おろしの身の方に味噌、醤油、酒のタレをぬり、ネギなどの野菜をのせ、鉄板で蒸し焼きにする。食
         べる時はかき回すのがコツ。
   塩鮭・・・・切身にして焼いたり、塩抜きした後でブツ切りにして、大根、芋、きのこ類、豆腐、コンニャク等と一緒に
         三平汁とする。また、鮭粕を加えて石狩鍋にしてもよい。水炊きや醤油味、味噌味仕立ても旨い。
   スモークサーモン
      ・・・・貯蔵中にタンパク分解酵素により、旨味に関連するペプチドが生成される。その時、揮発性塩基窒素も
         精製されるが、レモン汁をかけるとこの物質は中和されて、臭みが消える。これはレモンの中のクエン酸
         の働きによるのである。

             風花の 母なる川を 鮭のぼる       井上 まこと
             塩鮭の あぎと風吹く 寒さ哉        幸田 露伴
             雪の朝 独り干鮭を 噛み得たり      松尾 芭蕉          


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