日本の旬・魚のお話

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日本の旬・魚のお話
日本の旬   魚のお話(冬の魚-20)
 飯蛸(いいだこ)
魚で卵を持ったものは「子持ち」と呼ぶが、イイダコの場合は「いい持ち」と呼ぶ。
川柳に、「飯蛸は 丸かぶりして 味が出る (禿堂)」とある様に、丸のまま食べるのが美味しい。
秋から食べごろになるが、卵巣が発達し、頭(胴体)がはち切れるようになるほど、卵が熟してくる冬の頃が旬。

               飯蛸の 一かたまりや 皿の蓋(ふた)     夏目 漱石 
命名
胴の中の卵を煮ると飯粒のように見えることから、「飯蛸」の名が付いた。漢字では「章魚」や「章花魚」とも書く。これは紋章の章を用いた語で、胴に斑紋のあるイイダコの特徴からと思われる。また、地方によっては「一口蛸」や「子持蛸」、「石蛸」と呼ぶ。
「蛸」の字は平安時代に書く様になったという。「蛸」は本来、クモを意味していたとのこと。
タコの語源は諸説あり、手のあるナマコの意味である「手海鼠(てなまこ)」が訛ったものという説や、手が多いという意味の「手許多(てこら)」が訛ったものという説、「多股(たこ)」からきているという説などがあるが、いずれも根拠が無い。
  英名  Ocellated octpus
八腕形目マダコ科マダコ属イイダコ
タコは無脊椎動物のなかで最も進化した生物といわれ、沿岸の浅瀬から深海の海底、氷で覆われる北極や南極にも生息する。小タコはひ弱だが、親になってしまうと海の中ではよほど手強い相手以外、かなうものはいない。つまり、食物連鎖の中では、ほとんど頂点に近いところに君臨しているのではないだろうか。
世界中では約200種、我国では約50種が確認されている。主な仲間には世界最大のミズダコがおり、オスは3mに達する。他にマダコ(全長60cm)、ヤナギダコ(1m)、テナガダコ(70cm)、ワモンダコ、ウデブトダコなど。海底ではなく、一生海の表面近くを浮遊するムラサキダコ(オス3m・メス50cm)も仲間。
形態
全長約20cmとマダコの小型に似ているが、特徴は目の間にやや長四角の紋があるのと、眼の下付近の腕の付根に丸い金色に縁取られた紋がある。
『和漢三才図会』にも、「大阪岸和田に蛸地蔵という寺があり、本尊の地蔵菩薩はタコに乗って渡ってきたと伝えられ、この海でとれるタコは杖の金の輪がついているという」とある。これはイイダコの眼の下の金輪を杖の輪に見立てたものである。
分布
北海道以南の各地沿岸から、朝鮮半島西岸、東シナ海に分布する。日本沿岸では瀬戸内海や東京湾に多い。水深10m前後の砂泥底や砂礫底に棲息する。
産卵
オスとメスで合計16本の腕をからみつかせ、2〜3時間もくっついて離れない。オスは右第三腕の吸盤が欠落して交尾腕となっており、精夾(せいきょう)というカプセルをメスの外套膜内にある輸卵管へ打ち込むのである。
産卵期になってくると、オスに比べてメスの方は体色が白っぽくなり、見分けやすくなる。冬から春になると、海底の貝殻や空き缶、空ビンなどに棲み付き、内壁に卵を産み付ける。卵は米粒状で直径6mm前後と大きい為、産卵数は3〜400粒にすぎず、小型卵で十数万粒を産むマダコとは対照的である。
母ダコは海水を吹き付けて酸素の供給を続け、水温20℃なら1ヶ月近くで孵化する。母ダコが釣られるなどといった何らかの事情で居なくなると、卵はたちまち死んでしまう。
成長
春先に産まれたイイダコは、しばらく浮遊生活を送った後、水深が5〜10mぐらいの浅い泥砂の海底に居つき、夜間に行動してアサリやバカガイなどの二枚貝を好んで食べる。寿命は約1年である。
漁法と漁期
イイダコ漁の歴史は古く、漁に使われたタコ壷は、いくつかの弥生遺跡から出土している。現在でも、アカニシやアワビなどの貝殻に紐を通した小型のタコ壷を使うことが多い。また、素焼きのタコ壷は、イイダコ用のものはマダコ用より小型で、口径4cm、高さ約11cm、胴の最大は約7.5cmぐらいである。
操業は昼間に行われる。タコ壷を延縄状に海底に沈めておき、1〜3日毎に引き上げる。瀬戸内海や東京湾では、産卵前の秋と産卵期である冬が漁獲期。
イイダコ釣り
白い物を好む習性を利用する釣りで、ラッキョウや白い陶器、ブタの脂身ネギなど、つまりなんでもいいから白い物を結び付けて海底を引きずるという簡単なもの。寛政11年(1799年)に大阪で発刊された、物産図鑑の古典といわれる『日本山海名産図会』にも、巻貝の赤螺を使って釣る方法を記している。「太き縄に細き縄の一尋許りなるを、いくらも並び付け、その端毎に赤螺(あかにし)の殻を付けて海中に投ず、潮のさし引きに波動し時は、海底に住みて穴を求むが故に、かの赤螺に隠る。これを引き上ぐるに貝の動けば尚底深く入りて、引取るに用捨なく」とある。
タコを食べない国
日本人は世界一のタコ好き国民であるが、他方、外国人はタコを「Devil Fish(悪魔の魚)」と呼んで気味悪がって食べないと言われる。だが、どうしてどうして、食べない国は意外と少ないのである。リストアップしてみると、イギリスやドイツなど中欧の国々、ロシアなどスラブ系の国々、米国やカナダ、オーストラリア、ニュージランドのアングロサクソン系の人々、ほかにはモーリタニア、中国及びインドなど。
タコは切っても血が出ない ? 
血液が真っ赤に見えるのは、血液中のヘモクロビンの中に鉄分が含まれているからである。脊椎動物の血液がこの様な構造になっているのに対し、無脊椎動物のタコは銅と化合したヘモシアニンという物質が血液に含まれる。したがって、エラの中で酸素がヘモシアニンと化合し、青味がかった血液となって血管をながれているので、赤く見えないだけである。
海藤花(かいとうげ)
タコの卵巣が房状に続く「藤の花」に似ているため、明石藩の儒者が命名したという。海藤花は塩漬けのほかに酢の物や椀種、また、丸ごと煮付けにして食べても美味しい。
特産地
明治8年刊行の『日本地誌略物産弁』に、「イイダコの特産地として兵庫県の高砂市及び明石の二見町等の諸海浜に産す」と紹介している。また、加工品として、「海藤花を産す、イイダコの腹子なり、塩漬けにして諸国に出す、酒客の賞する所なり」とも紹介している。
半夏生(はんかしょう)
タコ食文化をもつ関西地方の人は、7月2日の半夏生にタコを食べる習慣がある。
半夏生とは24節気の一つで、夏至から11日目の7月2日をいう。田植えも終わり、農家では田神様を祭ってタコを賞味するという。梅雨時のタコを「麦わらダコ」といい、若ダコで味もよく、柔らかくて香りも良い。旬を食べる知恵かも知れない。
食べ方 
イイダコは、「いい持ち」のメスは大切にされるが、オスは「すぼけ」と呼ばれて数段低い待遇に甘んじることになる。
茹でる前にまず墨を取り除き、一掴みの塩でもみ洗いし、ぬめりを取ったら熱湯に足元から入れる。こうすると足が四方に広がって、形良く茹で上がる。その後、醤油と味醂で薄めに味付けたたっぷりのダシで、15分ぐらい煮る。
あるいは、お湯だけで20分茹でたものに、味醂でのばした白味噌をつけるか、ワサビ醤油で食べる。また、ネギと一緒に酢味噌で和えても美味しい。
身を柔らかく食べたい時は、塩もみの塩をひかえ、ぬるま湯でヌメリを取ると、柔らかく出来る。
その他、八宝菜などの炒め物や唐揚げ、フライ、おでん鍋物の具などなど。


             飯蛸や 川を境の 須磨明石       成瀬 桜桃子
             飯蛸の あわれやあれで 果てるげな    来 山
             飯蛸を 丸ごと鉢に 夕の膳        前川 ハル 


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