日本の旬・魚のお話

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日本の旬・魚のお話
日本の旬   魚のお話(冬の魚-12)
真海鼠(まなまこ) 
越前の雲丹(うに)や長崎の唐墨(からすみ)とともに、三河の海鼠腸(このわた)として天下の三珍に数えられ、「最初にナマコを食った奴は、相当のいかもの食いか、勇気がいったろう」とよく冗談に言われるナマコだが、『和漢三才図会』によると、「本朝には神代よりこれあり」と述べられており、海産物の神饌(しんせん)として古くからナマコを利用し、かつ食用としてきたことがわかる。
人間の世界で、特に昨今の世知辛い社会では、のっそりとした生き方はどうも分が悪い様に思える。けれど変化の激しい世の中だからこそ、表層の波に踊らされずマイペースでゆっくりと生きるナマコ的な生き方をもっと評価してもいいのではなかろうか。よく見れば、そんな人間の方が実は気骨があったりするのでは・・・。
ナマコは気温の下がってくる秋から冬にかけて、よく餌を食べるようになる。このため、冬のナマコは最も味がよく、「冬至なまこ」という言葉がある。寒空のもと、少量の内臓を丹念に処理して作られる海鼠腸や、海鼠子(くちこ)作りは、冬の風物詩でもある。

               小石にも 魚にもならず 海鼠哉       子規
命名
生だから「ナマコ」とか、なめらかな「滑(なめ)りこ」がナマコになったなど、諸説がある。
ナマコは古くは「コ」と呼ばれており、「海鼠」と書いて「コ」と呼んだ。従って有名な三河の「このわた」は、漢字で書くと「海鼠腸」となる。また「生海鼠」や「生鮮海鼠」と書いてナマコとふり仮名を付けたりする。
漢字の意は、「海の中で夜になると海底を動き廻る、ネズミに似た生き物」から。
 英名 Sea cucumber(海のキュウリ)  中国 海参
棘皮(きょくひ)動物門ナマコ網ナマコ目マナマコ科
ウニやヒトデと親戚で、体側に棘(イボ状突起物)がある。その種類は500種以上にものぼるが、食用になるのは北海道から九州までの日本各地の沿岸に棲んでいるマナマコ、オキナマコと金華山周辺のキンナマコ、沖縄や奄美大島で採れる赤ワタガジマルなど数種。
ちなみに、奄美以南の砂場に棲むオオイカリナマコは、体長3mにもなるという怪物。
形態
体は円筒形で、口の周りには冠状に触手があって花びらの様に見え、反対側端は肛門が開く。背面や側面には円錐状の疣(いぼ)足が点在し、不明瞭ながらも6縦列をなす。腹面には管足が3列に並ぶ。
骨の無い動物に見えるが、実は筋肉中に微小ながら沢山の骨がある。この骨片の形で分類したものに、骨片がイカリ形をしているイカリナマコ、車輪形をしたクルマナマコがある。

                 思うこと 言わぬさまなる 海鼠哉     蕪村
分布
マナマコは千島列島、樺太から九州南端まで分布し、水深40m以浅の海底に棲息する。体色は棲息場所によって栗色と褐色の斑紋が混ざり合った赤ナマコ(アカコ)、暗青緑色の青ナマコ(アオコ)、黒色の黒ナマコ(クロコ)の3型がある。
アカコは外洋の岩礁や転石帯に棲み、アオコ、クロコは内湾の砂泥底に多く分布する。アカコの方が軟らかく風味があり、関西においては高値で売買されるのに対し、関東ではアオコが好まれる。冬に活動が活発になり、水温が25℃以上になると岩礁の陰や転石の下などの暗所で仮眠状態となる。
産卵
産卵期は春から夏で、北海道では7〜8月、神奈川で4〜7月、福井で5〜6月、山口で4〜5月、九州では3〜6月。
産卵は夜間に行われる。生殖器は口の後ろの背面にあり、成熟個体は前半身を左右にくねらせながら産卵、放精する。
産卵数は大きさによって差があり、約500〜2000万粒。卵は楕円形で長径0.16mm。水温20℃の40〜45時間で孵化する。
成長
孵化直後の幼生をアウリクラリア幼生(0.55mm)といい、浮遊生活をする。10日前後でビア樽型のドリオラリア幼生(0.46mm)に変態し、次第に底生生活に移行、その後ペンタクチュラ幼生(0.32mm)になり、成長するにつれて体が縮む。孵化から約3週間もすると0.3mm前後の稚ナマコに変態する。
生後1年で6cm、2年で13cm、3年で18cm、4年で21cm前後になる。底質の砂泥を呑込み、その中に含まれる有機物、すなわち小型甲殻類、魚卵、軟体動物の幼生、珪藻類などを栄養分として成長する。
産地と漁法
志摩、若狭、能登、隠岐、肥後等が産地で、資源保護の観点から、産卵期を中心に各地で禁漁期が設けられている。小型の桁網や鉤、潜水等で獲る。
            能登島に 即(つか)かず離れず 海鼠舟     徳永 春風
海鼠の口が裂けている理由
口が触手で囲まれているためにそう見えるが、触手が食物を取込む時は収縮し、囲口部と共に口腔内に引き入れられる仕組になっている。
『古事記』にはナマコの口が裂けている理由について、次の様に説明されている。
天宇受売命は猿田彦神を送って帰って来て、ただちに大小の魚を集め、「天神の御子の御膳としてお仕え申し上げるか」と問うたところ、ナマコだけが命令を黙殺したため、怒った天宇受売命が、「この口は答えぬ口か」と紐小刀でナマコの口を切り裂いたので、いつまでもナマコの口は裂けているという。
自裁(じさい)作用
ナマコが敵に襲われた時、白いネバネバとした糸を吐きかけるが、これにくっつかれるとなかなか取れない。しかし、それでも敵がしつこい時には、なんと自分の内臓さえ吐き出して敵の攻撃をかわす。体がペチャンコになってしまい、しばらくはひもじい生活ではあるが、2〜3ヶ月程で再生するという。自裁作用をもつ生命力の強い生き物である。
共生
ナマコのエラは腸の周りに付いていて、肛門から呼吸のために海水の出し入れをしている。この肛門は内部が広くなっており、ナマコマルガザミやカクレウオが棲んでいる。ナマコはあまり魚から攻撃されることもないし、また、ナマコの糞が彼らの餌になっている。
海参(いりこ)
ナマコを煮上げて干したもので、強精の薬効があるとされ、朝鮮人参にたとえて「海参」と書く。中国料理に使われ、江戸時代に長崎から中国へ輸出された干アワビやフカヒレとともに、「三俵物(さんぴょうもの)」と呼ばれるほどの珍味だった。
ちなみに、中国ではナマコを「海男子」とも書く。これに対して「海夫人」は貽(ばい)貝である。
海鼠腸(このわた)
ナマコを刺激させると内臓を体外に出してしまうことを利用して、このナマコの腸を塩辛にしたものを海鼠腸という。ナマコの腸は体の三倍もの長さがあるので、「三条の腸」などと言われ、『本朝食鑑』の「海鼠腸食い初め書記」に、食べ初めたのは江戸時代になってからと書かれている。

                このわたを 舐(な)めて酒豪の 列にいる     小寺 燕子花
くちこ(このこ)
ナマコの産卵は口(頭部)からおこなわれるので「クチコ」という。また、ナマコの子であるから「コノコ」とも呼び、三味線のバチのように三角形に干すので「バチコ」ともいう。
火にあぶった後、酒にサッとつけて食べ、食通にとっては「これを食べだすと他のものは食べられない」という人もいる。
「クチコ」作りは、藻のように細い糸状の卵巣を紐にひっかけて天日で1週間干し、固める。また、真子と白子を混ぜると味に厚みが出るといわれている。一枚のクチコを作るのに10匹分を重ねてつくるので、寒ナマコが数kgも必要となる。最高の味に仕上るのは2〜3月中のものとされている。
美容と老化の予防
水分が90%以上もあって栄養価は低いが、海の人参とも呼ばれるだけあって、骨片に含まれるコンドロイチンが内臓や皮膚の老化を予防する。また、ナマコの身はアルカリ性のため消化もよく、昔から肝臓の働きを強化して酒毒を中和することがよく知られており、酒の肴に用いられてきた。
俗諺
海鼠に藁(わら)・・・・・・・・・・・ナマコを藁でくくっておくと溶けたり小さくなったりするという俗言(福井・山口)があり、相
                  手が弱って閉口するというたとえ。
海鼠の油揚げを食う・・・・・・・ヌルヌルとしたナマコを油で揚げればよけいツルツルするという意で、口が滑る、失言す
                  ることにたとえる。
塗り箸で海鼠を押える ・・・・・滑って押えにくいことから、何ともやりにくいこと。
海鼠は酢でもち人は気でもつ
                ・・・ナマコは酢を使った料理が一番で、人も気立てのいいのが最高という意。
海鼠の化けたよう・・・・・・・・・・さまにならず、しまりのない様。
食べ方
太くて短く、イボがはっきりしていて固いものが鮮度もよい。
   1.ナマコをたっぷりの塩でもんで身をしめる。
   2.ザルに入れて塩を振り、「振りナマコ」と呼ばれるように5分くらい強く左右に振って身をしめると、身のヌメリも
     とれる。
   3.番茶をくぐらせると臭みがとれて美しい鉄色になる。
   4.縦に切り、内臓を取り除き、適当な太さに切って二〜三杯酢にしたり、七味などを添えてもよく、また、ワカメ
     やキュウリなどと一緒に酢の物にしてもよい。

イリコ(干ナマコ)は真水でよく汚れを洗い落とし、一晩(10時間以上)水に浸けて戻すと、調味料の味がよく染み込んで、口の中でとろける程の軟らかさになる。
中国料理では適当な大きさに切り、魚介品やキノコを一緒に煮込んだスープやアンでとじた煮物にする。


           尾頭(おがしら)の こころもとなき 海鼠かな     去来
           塩ふって 海鼠の終(つい)を かがやかす     土田 河石
           すきものゝ 歯のきこきこと 海鼠たぶ       飯田 蛇笏


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