日本の旬・魚のお話

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日本の旬・魚のお話
日本の旬   魚のお話(冬の魚-7)
鱈場蟹(たらばがに)
タラバガニは手足を広げると1mにもなり、自他ともに認める北洋の王者の貫禄があるが、日本人とのお付き合いは意外と新しく、古典書籍には登場しない。初めて食文化史に登場するのは明治10年代なのである。
昭和40年代の北洋漁業華やかかりし頃は、タラバガニ漁をするカニ工船は4月に出航し、9月に目標を果たして帰港していた。このわずか100年ほどで食卓から消えようとしているタラバガニは、クジラやマグロ以上に大問題であるのかもしれない。
タラバガニは、10月下旬頃に100〜200mの深海で冬眠し、早春から沿岸に回遊し始める。北海道では、今でも宗谷から網走にかけての沿岸から流氷が沖に去ると、タラバガニ漁が開始される。春から夏にかけてが全水揚げ量の大半を占め、冬はごく僅かである。
これからすると、旬は春から夏となるが、俳句の季語は冬となっている。
               大笊(おおざる)に 選り分けられし 鱈場蟹      林  周平
命名
タラバガニの漁場が鱈のいる海域と同じなので「鱈場」と命名されたという説と、当時は価値もなく漁村の浜に棄てられた殻が山積みされていたので「殻場」からの命名という説がある。
   英名 Red king crab & Alaska king crab
十脚目異尾亜目タラバガニ科 
エビとヤドカリ、ヤドカリとカニの間に位置する種類がかなりあるといわれ、タラバガニもその一種である。
腹部がよく発達しているのが長尾類のエビで、腹部が左右不相称なのがヤドカリ類の異尾類、腹部の退化が著しいのがカニ類で短尾類と呼ばれている。
タラバガニは脚が8本で、カニの仲間の10本とは異なり、さらに第2触角がカニ類はごく短いのに対し、糸状に長い。また、ハサミ脚の腕節もカニ類が短いのに対し長いことなどから、カニの名を持つがヤドカリの仲間といえる。
タラバガニのメスの腹部が見事に右側にねじれており、おまけに内側には左側にしか腹肢がない。これはまさしく巻貝に入って生活するヤドカリ類の特徴である。ヤドカリ類は殻軸に腹部右側を押し付けているためか、腹肢は左側にしか残っていないのである。
タラバガニ科の仲間
   1)アブラガニ・・・・・・・・・タラバガニに似ているが、タラバガニは暗紫色なのに対し、全身が青紫色で歩脚は濃い
                  青紫色の縦縞がはっきりしているため、アオガニとも呼ばれ、タラバガニよりも歩脚が細
                  長い。北海道沿岸では少ないが、ベーリング海北部では全漁獲量の80%にもなる。
   2)ハナサキガニ・・・・・・・全身がこげ茶色であり、茹でると鮮やかな赤褐色となる。漁場として有名な根室半島の
                  別名である花咲半島にちなんで命名された。缶詰になるほどの漁獲はなく、ほとんど茹
                  でて冷凍で出荷されている。
   3)イバラガニ・・・・・・・・・幼体は多数の長い棘で覆われているが、成長とともに短くなる。一見タラバガニに似て
                  いるため、漁師はタラバガニとも呼ぶ。甲羅は紫褐色、歩脚は紅色で、房総半島から土
                  佐湾にかけて水深400〜600mに生息するが、個体数は少ない。
   4)チリイバラガニ・・・・・・イバラガニ属は深海底に生息し、味も落ちるので、水産資源としての価値は低いが、こ
                  の種だけは浅海に生息し、身肉の質も良く、資源として重要な種である。
   5)エゾイバラガニ・・・・・・甲羅が10cmと小型で、バターのような独特の香りがある。
   6)イバラガニモドキ ・・・・タラバガニに似ている。
   7)イガグリガニ・・・・・・・・全身がまさにクリのように覆われている。東京湾から九州までの海底180〜400mの
                  泥底に生息する。
形態
体は棘状突起に覆われており、やや扁平で甲は円形。額角の中央部は長く突出して尖っている。右側のハサミ脚の方が左側よりも大きい。
体色は暗紫色で、鋏(はさみ)脚や歩脚は赤い。前述のごとく、タラバガニの正体は「カニの形をしたヤドカリ」ということになる。甲長20cmで、歩脚は左右に広げると150cm前後に達する。
分布
アラスカ沿岸やペーリング海から樺太周辺などの北太平洋に広く分布する。日本では日本海沿岸や三陸以北の太平洋に生息し、北海道のオホーツク海沿岸と太平洋沿岸域に多く分布する。
水深30〜360mに生息し、成体は産卵期である春に浅海域へ集まり、産卵行動を終えると沖合の深場へ移動する産卵回遊をする。
産卵
通常4〜6月で、浅海域に産卵する。深海ではオスとメスが別々の集団で生息しているが、脱皮の時期になるとメスがまず岸辺にやってきて、オスの到着するのを待つ。
浅海域に移動してきたオスは、メスの鋏(はさみ)をそっと自分の鋏ではさんで押さえる。するとメスは、自然に真中から割れ始めている甲羅を安心して脱ぐ。
交尾はメスの甲羅が軟らかいうちに行われ、オスがメスの生殖孔付近に精子の入った精莢(せいきょう)というカプセルを押し付けて接着させるが、オスは交尾針を持たないため、メスの体内に精莢を挿入することはない。
精莢が押し付けられるとメスは直ちに産卵し、無骨な感じの鋏を使って卵と精子を攪拌する。
産卵数は、甲羅長が10〜15cmで5〜18万粒。卵は青紫色で直径0.8〜1mm、短径0.7〜0.9mmの楕円形。産卵後は、すぐにメスの腹部に付着して卵塊となる。産卵後10〜12ヶ月で孵化するといい、人間の誕生以上の日数がかかる。
成長
幼生は3〜5月に出現し、浮遊生活をしながら4回の脱皮をしてゾエア幼生からグラウコトエ幼生に変態する。さらに1回の脱皮をすると甲長1.7mm前後の稚ガニとなり、底生生活に移行するが、この間は約2ヶ月かかる。
その後10回前後脱皮を繰り返して8〜9mmに成長し、2年目で25mm、5年目で85mm、6年目で100mmとなり、成熟し始める。
幼ガニは集団で浅海域に生息することが多いが、成体は単独で沖合深所に生活するようになる。
肉食性で、多毛類や貝類、タモヒトデ類を食べて成長し、寿命はオスが30年、メスが25年ぐらいといわれているが、成長はいたって遅い。
漁法と漁期
刺網で漁期は4〜5月と11〜12月。
タラバガニ漁が始まったのは偶然による出来事からだった。鱈漁の漁船の船員がついうっかりと海底にまで網を下ろしてしまったところ、見慣れないカニが引っかかっていた。その当時は食べられることもなく捨てられていたという。
カニ缶
タラバガニの歴史は缶詰の歴史でもある。カニ缶製造は新潟出身の「碓氷時三郎」という青年が、1905年から北海道で始めた。
『現代に残る北海道百年史(読売新聞社)』に載っている「碓氷家の記録」によると、カニ缶を手掛けるきっかけは意外である。
内容は、『当時クナシリ島ではタラバガニが多く獲れ、厄介物扱いされて海産物としては価値のないものであったが、そこに碓氷氏が目をつけ、欧米への輸出を目的にカニ缶を製造したところ、計画が図に当たった。特に、缶の内側に硫酸紙を敷いてカニを包むという、彼の考案した日本独特の方法がカニ肉の変化を防ぎ、味をいっそう高めるとして、碓氷の頭文字を付けた「Uマーク」缶詰は世界的な評価を上げた。
1909年に開かれた太平洋博覧会(アラスカ)では大賞まで与えられている』とある。
    * 硫酸紙は、缶の鉄や錫とカニの成分が化学反応を起こしてガラス状の異物を発生するストラバイド現象を
      防ぐはたらきがある。
カニ工船
碓氷氏の成功で欧米への輸出が増大し、カニ缶工場は8年後には26工場にもふくれ上がったという。
その後、カニ缶製造では、極めて良質の真水から作った塩水しか使用出来なかったのが、1920年(大正7年)になると海水を利用することに成功し、翌年に1隻のカニ工船が出現した。
その後、1927年(昭和2年)には4000トン級の20隻の工船が着業したが、この裏には小林多喜二の名作『カニ工船』(昭和4年発刊)でもわかるように、「地獄船」と称した悲劇もあった。
女工節
賃金の安い女子従業員が多かったカニ工場では、当時、北海道や東北の貧しい農家から連れてこられた娘たちによって「女工節」が歌われ、女工哀史の哀調をいまに伝えいてる。
           女工女工と軽蔑するな  女工の詰めたる缶詰は
           横浜検査に合格し     あら 女工さんの手柄は外国までも・・・・
カニの選び方
カニの大部分は、歩脚とハサミが切り離されて冷凍品で売られている。そのため、凍結と解凍を繰返し、ドリップが流失したものは非常に味が落ちる。その理由は、タラバガニの濃厚な旨味のエキスがドリップとともに失われてしまうからである。
歩脚やハサミの冷凍品を買う場合は、切り口に腹肉が充分に付着し、ドリップが出にくく、付着肉が乾燥した感じでないものを選ぶと良い。
目利き・・・・専門家は、腹面の最後から2番目の胸節を中指の先で軽く押しただけで、良否を判定するという。また、
       見た目より重い物を選ぶことも目安となるが、これも当たり外れがある。
カニを茹でると赤くなる
カニの殻には、人参やミカンと同じカロチノイド系のアスタキサンチンという色素が含まれている。カニが生の状態では、この色素は蛋白質としっかり結びついているため、赤い色は現れないが、加熱すると蛋白質が変化してアスタキサンチンは蛋白質と分離し、さらに空気中の酸素と結びついてアスタシンという、さらに鮮やかな色素に変わるのである。
食べ方
タラバガニは、カニ類よりも糖質とカルシウムが非常に多いことから、歯ごたえがしっかりしている筋肉に、こくのある甘味が感じられる。
甲羅に肉はないが、脚の肉は体重の3割近くもあり、ほかのカニと比較にならないほど多い。また、メスよりもオスのほうが美味である。
新鮮なものは刺身や寿司種で食べられ、身はとける様に軟らかくて甘い。生のものは茹でて、ワサビおろしや二杯酢、ポン酢やダシの入った酢などで焼きガニ、カニすき、鍋物、味噌汁の具などにする。
カニを茹でる時は脚を輪ゴムか紐で結び、腹フタの中に塩を一つまみ入れ、甲羅を下にして、カニ味噌が流れないようにして茹でる。
活ガニは、口を金槌や出刃包丁などで叩いて麻痺させてから、熱湯に入れる。
煮物や碗だねなどには、茹でたものを使ってもよい。また、キュウリやワカメなどと酢の物にしたり、サラダに添えるのもよい。
「カニめし」は、身肉をほぐしたものに塩、醤油などの好みの味を付け、殻の煮汁ダシで炊き込む。
洋風料理ではホワイトソースとの相性がよい。
缶詰のカニを用いてカニクリームコロッケ、グラタン、スープの具などに、中華料理では炒め物や揚げ物に使うとよい。また、卵とも相性がよく、卵とじの甘酢あんかけにしたり、きのこ類と一緒にスープの具にして溶き卵をながしてとじるとよい。

              「カニ工船」  作詞 星野哲郎  

         カニを網からむしりとる 腕にしぶきの牙が立つ
         船は木の葉だ川崎舟だ  どうせ稼ぎはしれてるが
           (嗚呼 ドッコイドッコイ)
                           度胸は千両だ


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