日本の旬・魚のお話

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日本の旬・魚のお話
日本の旬   魚のお話(夏の魚-21)
エイと云えばアカエイのことかと思われるほど、エイ一族の代表格の魚である。
尾に毒棘を持っており、1985年1月12日には南太平洋ヌクヒバ島沖で操業中の日本のマグロ延縄漁船の乗組員の一人が刺されて死亡するという事故があった。
エイはなんとも魚らしからぬ形をしていて、海の中の鳥のようでもあり、詩人の高浜虚子は歳時記の中でアカエイを、「平たく広く団扇(うちわ)のような魚」と形容している。
毒をもつ魚は旨いと言われているが、エイの中でもアカエイは最も美味で、夏から秋が旬。

         雑魚と 置く赤えいの 眼の憤り       皿井 旭川
命名
『日本古語大辞典』には、「エイ、和名抄に衣比(えい)とあり、語源は不明であるが、エビ(蝦)と全然別語とみることは困難である。言語は「エ」であったかも知れない。アイヌ語「エブ」又は「イベ」は食べ物を意味することを考え合わすべきである」とある。
『国語語源辞典』には、「アイヌ語でアカエイをアイコトチェップ(棘を持った魚)というが、アイヌ語で「アイ」とは棘・針・矢などのすべて尖ったもののこと」としてある。東北地方の古語でも刺されて痛いことをアイといった。
エイの語源はアイヌ語の「アイ」とみるのが妥当であろう。また、エイは尾が長いので燕尾と呼んでいたのがエイに訛ったとも云われている。
地方名
エブタ(和歌山・三重・愛知)・・・各地の方言で紙凧のことを「エブタ」という。縄紙切れの長い尾をつけた菱形の凧で
                   あるが、その形とアカエイの形が相似からの呼名。
マエノエブタ(和歌山)・・・・・・・・マエは前掛け、前垂れのこと。上記と同義語。
エギレ(大阪) ・・・・・・・・・・・・・・前掛のことを「エギレ」ともいう。アカエイの形が似ていることから。
エイガンチョウ(長崎)・・・・・・・・ガンチョウは「ガンチウオ」で餓鬼や腕白者のこと。毒棘を持った厄介な魚の意。
ガタホリ(広島)・ガタボオ(対馬)
                 ・・・浅場の海底を掘って潜んでいることから。
アズキエイ(壱岐)・・・・・・・・・・・小豆色の体色からの呼名。「悪鬼エイ」の転訛か。
アカヨ(福島) ・・・・・・・・・・・・・・・エイの仲間の内でも体色が赤っぽいので、赤魚の意。
   英名 Stingray
軟骨魚綱エイ目トビエイ亜科アカエイ科
軟骨魚類はサメとこのエイだけの少数派で、特徴的なエラの形状や構造から、板鰓魚(はんざいうお)類と呼ばれている。
エイはサメから進化した魚と云われている。サメとはっきり違うのは鰓孔の位置で、サメは側面へ開いているが、エイは腹面に開いている。
エイの特徴は、背腹方向に扁平し、鰓孔は5対、もしくはまれに6対で腹側にあり、尾はあっても尾鰭はなく、大きな胸鰭は腹鰭と共に体盤を形成する。また、眼は背側にあり、歯は敷石のようである。海底を移動するものだけでなく、表層を泳ぐものもいる。
最古の化石は、恐竜全盛の時代のジュラ期後期のものだが、現代のエイと近縁の種で、姿かたちも非常によく似ている。
エイの一族は4亜目12科62属約456種あり、このうち日本の近海に生息するのは50〜70種といわれている。

    1.ノコギリエイ亜目(1科 2属 6種) ・・・左右両側にノコギリの歯がある。
    2.シビレエイ亜目(2科11属38種)・・・・・頭部に発電器官を持つ。
    3.ガンギエイ亜目(3科27属251種)・・・サメとエイの中間的な体形。他のエイと違って卵を産む。
    4.トビエイ亜目(6科22属161種) ・・・・・尾の付け根に毒棘をもつ。
      a)アカエイ科     約70種が生息している。
      b)ウスアカエイ科  1種
      c)ムツエラエイ科  1種
      d)ヒラタエイ科    35種
      e)ツバクロエイ科  12種
      f)トビエイ科      42種

エイの中の大物で、海中でよくダイバーとのんびり泳いでいる姿が紹介される「マンタ」は、オニイトマキエイと呼ばれる。
   英名 Giant devil fish
形態
その名の通り、背中は赤っぽい褐色、腹部は不気味な黄色を帯びた白色で、大きなものは全長2mになる。
尾は細長く、中ほどに小さな尻ビレがあり、その中に鋭い毒棘が1本隠されている。この毒は即効性の強毒で、釣り上げてハリをはずす時、尾がムチのようにしなやかに動く為、刺されることがある。
志賀直哉は『暗夜行路』の中で、「大根島にも陽が当たり、それがアカエイを伏せたように平たく」と書き、夕陽を浴びてぽっかり海に浮かんだ赤膚の島をアカエイの一言で言い表している。
分布
東北南部から東シナ海にかけて分布する。体盤長は1mを超え、沿岸から沖合の砂底に生息し、夏は沿岸の浅場で繁殖するが、冬になると沖合の深みへ移動する。
生殖
オスは体盤長30cm前後、メスは50cm前後から生殖行動に参加するようになる。肛門部に性器をもっているが、人間の女性器によく似ている。
メスの卵巣や輸卵管は左側のみが機能的で、生殖期になっても右側は未熟なままである。オスは左右の生殖器が機能する。
成長
卵胎生であり、体内で孵化した仔魚は卵黄の栄養を吸収する。やがて卵黄がなくなると、母親から栄養を吸収して成長する。
初夏に10cm前後の砂泥で10尾前後の幼魚を産む。幼魚は長い尾で外敵に備えつつ、ゴカイ類や甲殻類、貝類などの底生生物を食べ、2〜3年すると成熟する。
漁法
延縄(はえなわ)、刺網、定置網、底引網などで漁獲される。
延縄は20〜25cm間隔に30cmの掛けバリを並べる。これを大きなブイにつけ、ひと縄約30mぐらいのものを、魚の通り道を横切るように夕方から敷設する。
延縄の途中には石オモリを付け、水中ではこの仕掛けが暖簾のようになっている。
徳川時代に刊行された『日本山海名物図会』には、アカエイについて、「これを獲るには、漁人舟ばたを叩けばエイ多く浮き出るなり、これを銛(もり)にて突きとるなり」と記し、絵まで添えてある。
アンモニア臭 
浸透圧の調整には、サメと同様に独特の方法を使っている。
血液中の塩分量は他の魚と同様であるが、TMO(トリメチルアミノオキサイド)や尿素を体液に含むことで海水の浸透圧とほぼ同じ値を保っている。このため、漁獲後の処理が不適切であると、アンモニア臭が強くなる。
食べ方 
縄文時代の貝塚からも出土し、昔から食用として利用されてきた魚である。
『料理物語』という古書には、「エイ・汁・なます・でんがく・鍋やき・吸い物」とあり、『和漢三才図会』では、「これを煮て食べれば下痢が止まると言ふ。胆は小児の雀目(とりめ)を直す、しばしば試してみたが効き目がある」と薬効を紹介している。
鮮度が落ちるとアンモニア臭が出てくるので、新鮮なものを選ぶのがポイント。湯引きのコツは熱湯でさっと湯がくか、鯉のあらいの要領でそぎ切りにして、冷水にさらして酢味噌で食べる。
背中の肉が一番旨いようだが、肝も食べられる。
煮付けは、臭み消しの薬味をきかせ、味付けは少し濃い目にする。味噌煮込みなども美味しく、フライには甘酢あんかけが一層味を良くする。煮こごりは骨ごとゆっくりと煮込み、干物は軽くあぶって酒の肴にするのが良い。
ヒレはフランス料理にも使われる。ヒレの干物の煮込みは、伊勢地方では祭りや祝の膳の一品だった。また、秋田では干物の煮付けがよく食べられたが、最近では高級料理の一品扱いである。
粕漬けやカマボコなどの煉製品のすり身の原料にもなっている。


                 風呂敷の 泳げる如き 赤えいかな          迷水
                 赤えいは 毛物の如き 目もて見る       山口 誓子
                 大赤えい 北海道の ごとく浮く          板谷 島風


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