日本の旬・魚のお話

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日本の旬・魚のお話
日本の旬   魚のお話(夏の魚-15)
黒鯛(くろだい)
鯛は神事などにも古来から使われてきたが、オコゼやイワシがその姿や生臭さから悪霊や厄を払うためのいわば魔除けに使われてきたのに対し、鯛類は主に福を招くためや祝い事の際の神仏への祈願、返礼のために用いられてきた。厄を払い福を呼び込もうとする古来人の信仰が、まさに日本の魚食文化と融合して造り出された風習であろう。
「5月陰暦の腐れ鯛」、「麦わら鯛は馬も食わず」などと夏の真鯛は悪態をつかれるが、黒鯛の旬は5〜10月で、真鯛がまずいと言われる夏がもっとも美味。

          人は武士 柱は檜(ひのき) 魚は鯛
             小袖は紅梅 花はみ吉野         横井 也有 (江戸時代の俳人)
命名
タイという名は、最も早い時期に著された古文書のほとんど全部に出てきている。
例えば日本最古の歴史書である『古事記』や『日本書紀』、文学書の『万葉集』や『続日本紀』、『日本後紀』、『古今集』を始めとする八代集、諸国の地誌物産を著した『風土記』、法制について記した『延喜式』にも、また辞書辞典というべき『和名類聚抄』や『新選字鏡』にも必ず記述されており、かなり古くからあった名である。
日本魚名の研究者である渋沢敬三氏は、タイは「アユ」や「ウナギ」、「コイ」などと同じで成立の時期が古く、現在では命名の意味も命名由来も不明になった一次魚名であるとしている。
『本朝食鑑』、『和漢三才図会』、『魚鑑』に、「和名チヌ、西国にチヌダイ小なるものを俗にカヒヅという。形タイに似て全身(そうみ)灰色なり、古(いにしえ)よりいやしむといへども、その味美し、真鯛に次ぐものなり」とある。
なんでも食べてしまう雑食性の魚であるから、中国では「汚物を食らう魚」とか「死人を食らう魚」と云われ、きらわれたり、いやしまれたり、軽視されている。
地方名
チヌ(関西)・・・・・・・・・・・『和漢三才図会』には、「泉州より多く産す、古くは泉州を茅渟の縣と称えたり、故にこれを名
               とす」とある。『日本古典大辞典』には、「チヌは茅野であろう、茅の生えた野の意」としている。
               一般には茅渟(大阪湾)の海に多産したことによって「チヌ」と呼ぶと解している。
カイズ(三重・和歌山)
            ・・・・若幼期のものの呼称。幼魚にはやや鮮明な横縞がある。縞のある魚を「猪の子」の意味で呼
               ぶ例は少なくない。「亥子」も「猪の子」と同義語である。
ツエ(三重)・・・・・・・・・・・老成魚を呼ぶ。よく熟すること、崩れることを「ツエル」という。「ツエ」はクロダイの老成したもの
               を云う。
マナジ(三重・静岡)・・・・「マ」は岩礁周辺をさす漁村用語。「ナ」は「ノ」と同義。「ジ」は魚を表す接尾語であるから「マ
               ナジ」とは磯の魚の意
ナベワリダイ(伊勢周辺)
            ・・・・炊いた鍋を突っつき過ぎて割るほど旨い魚の意で呼ぶ。昔の鍋は土製で割れ易かった。
チンチン(東京) ・・・・・・・小さなチヌの意で幼魚をいう。「チン」は小さいものを表す方言。
カワダイ(北陸) ・・・・・・・沿岸に生息し、河口にも入ってくるため「川鯛」の意。
    英名  Black seabream & Black porgy
スズキ目タイ科ヘダイ亜科クロダイ属クロダイ
タイ科には6亜科29属100種あり、日本産のタイ科はそのうち3亜科7属13種生息する。
   平鯛亜科(6種)・・・平鯛・黒鯛・黄チヌ・南黒鯛・南洋チヌ・オーストラリアチヌ
   真鯛亜科(4種)・・・真鯛・血鯛・鰭子鯛・台湾鯛
   黄鯛亜科(3種)・・・黄鯛(連子鯛)・キビレン赤連子・星連子
   平鯛(へだい)の仲間は皆んな色が黒い
    平鯛 ・・・・・・黒鯛に似ているが、頭部から丸味を帯び、胴体が張って扁平であるところから呼ばれる。体の色も
            白っぽく褐色の縦縞が10条走っている。黒鯛よりも磯臭くない。40cmに達する。
    黄チヌ・・・・・黒鯛によく似ているが腹ビレや尾ビレが黄色であるからキチヌという。黒鯛や平鯛と同様に性転換
            する。50cmになり、やや磯臭い。
形態
タイ科の中では最も体形が真鯛に似ている。まるで真鯛に墨を落としたかのような魚体である。
体色は、体側背部が暗灰色、体側腹部が銀黒色。体側に不規則な暗色横帯が8〜10条ある。各ヒレは銀黒色で、死ぬと黒色に変色する。体長は45cmに達する。
分布
奄美大島と沖縄を除く日本各地にいて、海底が泥砂になった内湾の比較的浅い場所に棲む。
塩分濃度の低い海水にも強く、河口はもちろん、ときには川のかなり上流まで遡ってきて、エビやカニ、貝はもちろん、海藻からスイカ、流れてきた大根やカボチャまで何でも食べる。
夜になると海面に上がってきて餌をあさる夜行性である。黒鯛釣りは夜釣りのほうが釣果があがるのもそのためである。
地付き魚と移動魚があり、前者は周年岩礁や離岸堤に棲み付いているが、後者は季節的な深浅移動を行っているらしい。
産卵
産卵盛期は春〜初夏で、明石沖で6月、広島沿岸で5〜7月。卵は球形で分離浮性卵。17℃なら65〜75時間、20℃なら40〜45時間で孵化する。
成長
孵化直後の仔魚は全長2mm前後で、1ヶ月経つと1cmになる。クロダイは環境適応能力が高く、水温は3℃以上30℃以下で生存可能であり、塩分濃度では低塩分に強く、ほとんど淡水に等しいところまで可能。また、濁りにも影響を受けないという強靭な体の持主。
1年で尾叉長が15cm、2年で20cm、3年で25cm、4年で30cmになる。二枚貝類やエビカニ類、多毛類、アオノリ、オバクサなど、何でも食べる。
特異な性転換
精巣と卵巣の両方を持っているが、精巣の方が発達するので、生後2年までは全部がオス、卵巣が発達してきて2〜3年までは大半が両性。3年で一部がオスになり、4年で性の分化が起きてはっきり雌雄が決定するが、メスが圧倒的に多い。
3年までのものは体表にやや鮮明な薄白い横縞があるが、成魚になると不鮮明なものになる。性転換する魚類も多くいるが、なぜかメスが多くなる。種の保存に役立つのが、その理由かもしれない。
漁法
刺し網、定置網、曳網、一本釣などで周年漁獲されるが、漁獲盛期は西日本で5〜11月、東京湾で9〜4月である。
磯釣の王
釣人を魅了するのは、繊細で非常に用心深く、神経質な臆病者で眼が良い魚、つまり糸と鉤には極端に敏感な魚が対象となる。
十分に警戒し、餌をくわえて微妙なアタリがあっても一気に飲み込んだりせず、用心しながら腹の中に入れるクロダイは、まさにその性質を備えている。また、鉤がかりすると強引なまでの引きがあり、仕掛けを切らさぬよう、魚をバラさぬようにワクワクしながらクロダイと一体になれるところも魅力的である。
「カイズ十三通り」といわれるように、釣りはフカセ、シャクリ、投げ釣り、ウキ釣りなど土地によって釣り方や仕掛け、餌なども多種多様。外房の千倉あたりでは、梅雨明けの季節になると、なんとスイカでクロダイを釣るのである。魚類でスイカを食うのはクロダイだけではなかろうか。
淡水魚でタイの名のつく魚
近年になって魚市場で商品名として命名され、標準和名とされたのが「チカダイ」。
アフリカ渡来の淡水魚で、学名が「テラピア・ニロチカ」でチカをとって「チカダイ」と命名された。皮膚は黒ずんでいるので皮をはいで店頭に出される。白身の刺身は淡白で美味。
タイと名のつく魚
魚は37目315科3362種あるといわれてる。その中でタイと名のつくのは4目41科335種もあり、日本近海には110種生息する。
     ・スズキ目には30科312種
     ・マトウダイ目には3科12種
     ・キンメダイ目には5科10種
     ・カサゴ目には1科1種
俗諺
腐っても鯛・・・鯛は腐っても海魚の王に変わりはないという意で、優れたものはどんなに落ちぶれても威厳や価値は
         変わらないという例え。
鯛の尾より鰯の頭
      ・・・・「鶏口となるも牛後となるなかれ」と同じで、大きな集団の尻につくよりは、小さな集団のトップ方がいい
         という例え。
内の鯛より隣の鰯
      ・・・・「隣の飯は旨い」と同じで、よその方が良くみえるという意。
タイの旨さ
鯛の鮮度によって呼名がある。泳いでいる鯛は「活け鯛」、活け締めして身が活かった「締め鯛」、死後硬直がおこってきた状態の「締まった鯛」、硬直がさらに進んで腐敗が始まった「だれ鯛」など。
旨さには好みがあり、活かった鯛のコリコリ感が最高と思う人と、締めてから冷蔵庫で10〜15時間ほど寝かせてイノシン酸等が最高になった締まる寸前の鯛のしっとりとした食感が好みの人がある。
食べ方
日本料理というのは元来下記のような特徴がある。
       ・水を使った料理が多く、油や乳製品を使わない。
       ・自分で好みの味にするのに生の調味料を活用する。
       ・たくさんの品数があり、品数は多い方がよい。
       ・醗酵食品をふんだんに使う。
もとの味が良ければ良いだけ、なるべく本来の味を生かすのが魚食の基本であろう。鯛のような、すばらしく美味な魚の食べ方は、昔から今日までそれほど変わっていなくても不思議ではない。
明治以降の料理法としては、刺身や塩蒸し、酒蒸、かぶと蒸、塩蒸し焼、かぶと焼、塩煮、ちり鍋、吸い物、釜飯、茶漬け、押し寿司、鯛味噌、茶飯、蒸鯛の身と大豆を混ぜた豆料理などが代表的なもの。
地方の名物料理としては、小田原の松皮づくし、広島と愛媛の鯛麺、生けづくり、骨蒸し、鯛めし、浜焼、長崎しっぽく料理の御鰭、徳島の鳴門鯛づくし、金沢の鯛の昆布巻、おから蒸、大阪の雀鮨、酒田の鯛のうしお、などなど。
グルメで有名だった吉田健一さんの言葉に、「瀬戸内海の鯛を刺身にした味には、無限に複雑なもの、或いは豊富なものが感じられて、これはフランス料理の料理法が無限に豊富なものに対する」と云って鯛を褒め称えている。


           黒鯛釣りの 一枚岩を 頒ちあい       杉   良介
           月光を はじき散らして 黒鯛あがる     矢吹 京助
           ちぬ釣の 帰る灯連ね 暁の海        町野 誉史子


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