日本の旬・魚のお話

お問い合せ先
現在作成中
係  
部・課 企画管理部
主要扱い品目  
担当者  
TEL  
FAX  

日本の旬・魚のお話
日本の旬   魚のお話(夏の魚-4)
鼠鯒(ねずみごち)
一般にコチと呼ばれる魚には、カサゴ目コチ科のマゴチとスズキ目ネズッポ科のコチがあるが、両者とも形や生息場所がよく似ており、非常に紛らわしい。
コチ科は口が大きく、鱗があって粘液は少ないのに対し、ネズッポ科のコチはその逆である。
カレイ類やキス釣りの外道としてよく釣れるが、体がヌルヌルした粘液に覆われていている為、釣り人からは嫌われる。
関東の料理屋では、コチ科を「マゴチ」、ネズッポ科を「メゴチ」と呼び、いずれも天ぷらにすると美味である。尚、コチ科にはメゴチという魚もいるので、こちらも紛らわしい話ではある。
初夏から夏が旬。
              水底の 波透(す)く砂や 鯒動く      松田 季風
命名
尖った鼻先と小さな口が鼠に似ていて、姿や生態がコチに似ていることから。
コチとは、『大言海』によると「魚形が笏(こつ)の形に似ているためコチと呼ぶ」とある。「笏」は「シャク」とも読み、束帯の時に手に持つ細長い「手板」のことで、今も神官が儀式の時に使う。
コチを表わす国字は5〜6字あるが、その一つに「鮓」があり、骨っほい魚のこと。コチとコツは同義語で、コツは頭を意味する方言である。
地方名
地方名は多いが、ネズミゴチ以外のネズッポ科のコチも混同して使われているので、どのコチをさすのか区別が難しい。
メゴチ・ネズッポ(関東)・・・・マゴチと区別して使う。
テンコチ(兵庫)・・・・・・・・・・テンコは袖なしや筒袖の襦袢(ジュバン)の意で、それらを着た様な形の魚という意味。ま
                 たは「上を向く」意から常に上を向いている魚をさす。
ガッチョ(阪神・淡路)・・・・・・ガチウオの転訛語で呼ぶ。貧乏な上にいやらしいことを「餓鬼(がき)」といい、魚形からの
                 呼名。
ジンスケ・ジンタ・ジンタロウ(和歌山)
              ・・・・昔は、性欲の源は腎臓にあると考えられていて、性欲の旺盛な男を「腎助・甚太・甚太郎」
                 と呼んだ。江戸〜明治時代の花柳界用語で、ヌルヌルした体表の粘液と男性の体液を連
                 想させた呼名であろう。
ノドグサリ(関西・四国)・・・・頭部に近い咽のあたりに内臓があり、鮮度が落ちると不消化物の悪臭が強いことから。
メトジ(富山) ・・・・・・・・・・・・方言で「盲鬼」のことを「目閉(めとじ)」という。汚らしくて、頭上に棘のある魚の意。
メカギ(新潟)・・・・・・・・・・・・目の両側に鉤(かぎ)、つまりトゲのあることから。
コゴチ(広島) ・・・・・・・・・・・「コ」や「コオ」は鉤(こ)の漢字音。「鉤ゴチ」の音便転訛語の呼名。
メメダレゴチ(広島)・・・・・・・耳から出る悪臭の膿汁をミミダレといい、「メメダレ」はこの訛。魚の粘液の垂れ落ちること
                 からの呼名。
ヨドゴチ(熊本) ・・・・・・・・・・「ヨド」はよだれのこと。
テグリゴチ(千葉)・・・・・・・・「テグリ」はテクテク歩くこと。この魚が海底を這いまわるように前進することから。
ウシロデ(和歌山)・・・・・・・・海底を前進する時、胸ビレが両脇について後ろへ手を伸ばした形に見えることからの呼名。
ヘタゴチ(新潟)・・・・・・・・・・「ヘタ」は海辺や磯辺のことで、岸近くに棲む魚の意。
メベタ(高知)・オカゴチ(香川)
              ・・・・上と同じく岸近くに棲む魚の意。
英名  Richardson dragonet(dragonetとはネズッポ科の総称)
スズキ目ネズッポ科ネズッポ属
ネズッポ科は18属130種、イナカヌメリ科は2属7種いるといわれている。
ネズッポ属に属するネズミゴチの仲間としては、滑(ぬめり)ゴチ、槍(やり)ゴチ、鳶(とび)ゴチ、旗建(はたたて)ゴチ、箆(へら)ゴチ、瀬戸ゴチ、幌(ほ)ゴチなどがある。
分布
東北以南や朝鮮半島南部、東シナ海に分布。ネズッポ科の130種のうち30種前後が日本に生息する。
内湾のごく浅い砂泥底に棲み、移動する時もほとんど海底から離れようとせず、砂泥上を滑るように遊泳する。
形態
体が縦扁(背腹方向に扁平)し、頭部は押しつぶされた牛の頭の形に似ている。
エラはエラ穴、つまり鰓孔(さいこう)が小さく、背側向にあって上向きに開いており、エラブタには棘があって刺されると痛む。
体表には鱗がなく、甚だしく粘液を出す。全長20cmになる。
『大和本草』には、「ヌメリゴチ 水ふきの両わきに針二つあり」と外観をこう言い表わしている。
消化管が短い為、普段は食べたものを強い消化液で早く消化してしまうが、死後はこの消化液が作用して自らの内臓を溶かしてしまい、内臓が傷み易い。
産卵
春に生息場所の浅場で午後から夕方にかけて産卵する。ピークは14〜16時。
オスはエラブタや各ヒレを大きく広げてメスに接近し、メスが逃げなければ傍らに寄り添うようにする。メスがオスに寄り添うとゆっくり海底近くを泳ぎいだのち、体をすり合わせるようにしながら上昇していく。海底から1m前後に上昇すると水平遊泳に移り、腹面を相手に向けて泳ぐ。そして尾部を大きく反らせて腹部を押し付け合い、産卵、放精する。
この時、オスはゆっくりと尻ビレを波打たせ、精子を卵へ扇ぎかけるようにする。
雌雄が水底に並んでから、産卵放精を行うまでの時間は5〜10分。産卵後のメスはオスを避け、オスは他のメスに求愛を始める。
卵は円形で直径0.7mm前後の分離浮性卵。産卵から孵化するまでの時間は水温20℃前後で約20時間。孵化直後の仔魚は全長1.2mm前後で細く、仔魚はごく未発達な状態で、口や胸ビレ、心臓が分化していない。
成長
孵化後4〜6日で全長2mmになり、心臓が機能し、口も開口する。孵化した仔魚は浮遊生活をし、時には腹部を上にして漂っていることもある。
2〜4日で正常な遊泳となり、その頃から頭部が縦扁し始める。1ヶ月後に全長約1cmとなり、底生生活に移行する。肉食型で、多毛類や甲殻類を食べて成長する。
花魁(おいらん)
昔、江戸前の釣り人はコチの棘を「簪(かんざし)」と呼んだ。花魁の髪にさした簪に似ていることからの命名であろう。この命名者はよほどの粋人であり、釣りにも精通した人ではなかろうか。
食べ方
新鮮なものは、体表に赤みやツヤがあって腹部にも張りを持ち、眼も黒くて透明感がある。また、大型のものの方が身に締りがある。
食べるところは少ないが、白身であっさりしており、刺身にするとコリコリとした歯ごたえがあり美味。また、火を通すと身は軟らかくなる。
「松葉おろし」にして衣をつけ、天ぷらにすると美味で人気がある。椀だねや鍋物の具、酢の物、塩焼き、煮付などに利用し、また、高級煉製品の材料にもなる。
頭を落とし、開いて骨と内臓を取除き、サットと湯がいて梅肉のたれをかけると涼しい一品となる。
   松葉おろし・・・エラの棘がじゃまするので、このおろし方がよい。
       1.ぬめりが多いので、粗塩でもみながらこれをよく取除く。
       2.背ビレを落としてから頭を落とす。頭は完全に切り離さずに腹皮1枚を残して切る。頭を持って引き下
         げるとくるりと皮が剥け内臓も抜ける。
       3.中骨に沿ってそれぞれ左右の身をおろす。この時身を切り離さないよう尾ビレの付根で包丁を止めて
         おき、そして中骨を切る。
   
                    友連れに 鯒も放りて 河豚供養        水原 秋桜子
                    鯒つりて しばし遊ばす 忘れ潮        宮崎 茂子
                    鯒釣るや 涛声四方に 日は滾(たぎ)る    飯田 蛇笏


ウィンドウを閉じる