日本の旬・魚のお話

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日本の旬・魚のお話
日本の旬   魚のお話(春の魚-4)
栄螺(さざえ) 
栄螺といえば、磯の大物狙いに欠かせない代表的な餌である。イシダイなどは栄螺を好んで主食とし、栄螺なしには絶対に釣れないほど。しかし、魚に食わせるのはもったいないと思うほど味がいい。海辺の土産物屋の店頭で焼く「つぼ焼き」の匂いに、つい足を止めたくもなる。
栄螺は、水の澄んだ美しい磯の香りと、陽光燦々(さんさん)の春の海を想像させる味。そして丸ごと食べると、なんとはなしに懐かしさが漂うようなほろ苦い味を秘めている貝である。
アワビと同じ春から初夏が旬。
         磯岩の 四月鮑(あわび)と さざえ哉     李 王
命名
『日本釈名』には、「ささ」は小さい、「え」は家にあるとのこと、つまり「小家」が転訛してサザエになったという説を挙げている。また、『和訓栞』には、「小さな柄のようなものを多くつけた貝の意」とある。
古名は細枝家(さざえ)といい、今も方言として残っている。また「栄螺」の字の由来は、巻貝を意味する「螺(にな)」と、表面の角がいかにも栄えているように見えることから「栄」の字を組み合わせたものという。
英名  Spiny top shell, Horned turban
腹足網原始腹足目竜天サザエ科
貝類は世界中に約11万種もあり、中でもサザエを筆頭とする巻貝は、ハマグリやアサリなどの二枚貝類グループ2万5千種をはるかに圧倒する最大のクループで、約8万5千種もある。
竜天サザエ科のうち、日本に生息するのは58種で、1cm未満のものから重さ1kg以上のものまである。
   竜天栄螺亜科・・・・日本種は14種で、栄螺や朝鮮栄螺、平栄螺など。
   竜天サザエ科・・・・大王栄螺、金口栄螺、夜光貝。
   裏薄貝亜科・・・・・・日本種24種。
   山椒貝亜科・・・・・・日本種15種。
   山椒薄貝亜科・・・・日本種5種。
   大王栄螺・・・・・・・・オーストラリア南部に生息し、殻高23cmと世界最大。
   金口栄螺・・・・・・・・金色の殻をもつのはこの1種で、殻口内が金色を呈する。
   朝鮮栄螺・・・・・・・・朝鮮半島には分布せず、沖縄で多く獲れる熱帯性の貝で、ツノはない。
   平栄螺・・・・・・・・・・房総半島以南に生息。市場に出まわるのはまれ。
   夜光貝・・・・・・・・・・殻高15cmと大型で、正倉院宝物の螺鈿細工はすべてこの貝。
    * 裏薄貝亜科のリンボウ貝
       相模湾以南の水深100〜300mに生息し、上から見ると、サザエと同じようにある7〜8本の細長いツノが
       美しいので「勝利の星」と呼ばれ、日本貝殻学会の紋章として、また60円切手にも採用されている。 
形態
巻貝で、殻は拳(こぶし)形をしており、硬く重い。螺層は6階を数え、各層は円みを帯びている。肩部には角状のツノ(管状突起)が伸びているが、このツノが全く現れない個体もある。
一般的には、外海に面した磯に生息する個体のツノは長く、内湾のものはツノが短かったり、消失していることが多い。
また、ツノのあるサザエを水槽に入れて飼育すると、ツノは次第に短くなり、さらには消失してしまう。
殻の口にはヘタと言われる蓋があり、ヘタには身(足)がつき、その部分は黒色。奥にいくと内臓があり、その末端に生殖腺がある。貝殻の色は餌にする海藻の種類によって変化し、テングサ類だけ食べていると殻は白ぽい模様になり、アラメやカジメだけを食べると黒褐色になる。成長すると殻高10cm、ヘタの殻口の部分の直径が8cmぐらいになる。
分布
日本海側では新潟の飛島、太平洋側では千葉の外房から、九州にかけての沿岸各地と朝鮮半島南部や中国大陸沿岸に分布する。特に外海に面した岬や半島の先端にある岩柵や岩の下、岩礁の亀裂、大型海藻の生え際などに多く生息する。
産卵
初夏から初秋にかけて産卵し、特に水温が急激に20℃前後から25℃へ上昇する時期に産卵する。
外房では7〜11月、新潟で8〜9月、下関で6〜8月に産卵。
雌雄の区別は外観からは出来ないが、生殖腺を見るとメスが暗緑色、オスが白色を呈していることから分かる。この生殖腺のことを俗に「栄螺のしっぽ」とか「褌(ふんどし)」という。
抱卵数は大きさによって異なり、30〜290万粒と差が大きい。卵は緑色をしており、直径0.2〜0.3mmの沈降卵で、水温25〜26℃なら約11時間で孵化する。
成長
殻高が0.3mm前後になると水深2〜3mの海底に着底し、底生生活に移行する。その後は珪藻などを食べて成長し、次第に沖合いへと移動する。殻高が6cm未満の個体は水深10m以深にはあまり生息しないが、殻高が7.5cm以上の個体では水深30m前後まで生息している。
ワカメやアラメ、カジメ、ホンダワラなどの大型褐藻をよく食べ、テングサ類等の小型紅藻や石灰藻なども食べて成長する。
成長のスピードは生息場所によって差が見られ、暖かいところほど早い。外房では1年で殻高2.5cm、2年で5cm、3年で8cm、4年で10cm前後になる。飛島では2年で3〜4cm、4年で5〜6cm。
夜行性で昼間は殆ど動かず、日没から真夜中にかけて活発に行動する。
成貝の夜間の移動速度は1時間に60cm前後といわれるが、周辺の環境条件によっては、一晩で100m前後も移動するらしい。
漁法と漁獲量
刺網や潜水、貝突きによって漁獲する。貝突きとは、船上から箱眼鏡を使い、長い柄の先に三叉の金具の付いたサオで挟み込んで獲る漁法。年間の漁獲量は8〜10千トン。
サザエは、アワビ類のような人口種苗の生産技術が進んでおらず、移植放流は天然種苗に依存している。種苗の供給地は三重や千葉、福井などで、各県の民間蓄養業者が仕入れたサザエを移植用に振り向けている。
DNAによる系統調査
日本全国のサザエのミトコンドリアDNAを調べた結果、黒潮(太平洋)系と対馬暖流(日本海)系の2系統があることが分った。最も純粋な黒潮系は伊豆や房総に、対馬暖流系は九州西部のみに見られ、瀬戸内海は両者が混在している。
日蓮とツノなしサザエ
日蓮上人が布教のため、千葉から海を渡って鎌倉に旅立った際(建年5年・1253年)、浜が遠浅で船が進まずに難渋し、村人が上人を背負って岸辺までお連れした。その時、村人の足がサザエのツノで傷ついて出血しているのを見た上人は、お題目でそのツノを封じた。それ以来、この横須賀の米ヶ浜で獲れるサザエはツノがないという伝説が残っている。
刺身と壷焼の歯ごたえ
刺身がコリコリとした歯ごたえなのは、タンパク質の一種であるコラーゲンが多く存在するためである。コラーゲンは硬タンパク質といわれるように硬い。
しかし、壷焼にした身は軟らかくなる。これはコラーゲンが加熱によりゼラチンという軟らかいタンパク質に変化したためである。
一方、内臓に近い部分の身は刺身で食べると軟らかいが、壷焼にするとやや硬くなる。これは、この部分にミオゲンやミオシンというタンパク質があるため、コラーゲンとは逆の変化をする。
アワビとサザエ
餌が海藻で、特に褐藻類であるところが共通していることで、旨味成分がアワビと似ているが、アワビほどコクがない。これは核酸関係物質、グリコーゲン、タウリンなどの含有量がアワビと比べて少ないためと思われる。但し、コハク酸はアワビの2倍含有している。
俗諺
猫と栄螺・・・・・・・・・・・・・・・猫は栄螺が大好物であるが殻が硬くてどうしても食べられないことから、あきらめざるを
                 得ないという意。ところが、イシダイは栄螺の殻を砕いて中身を食べてしまう。
夏の栄螺は口ばかり・・・・・旬を過ぎた栄螺は殻と口ばかりが目立ち、身も内臓も痩せてしまっている。そこで、口先
                 だけの人をいう意で使われる。
栄螺に金平糖 ・・・・・・・・・・金平糖は砂糖で作ったツノのある菓子。サザエもツノがあるから、互いにツノを突き合せて
                 理屈を並べ、自説を譲らない者同士を皮肉っていう。
栄螺の拳、白魚の手・・・・・男の握り拳の逞しさをサザエに、女の手の優しさを白魚の手にたとえていう。
食べ方
3月3日の「ひな祭」にはハマグリやサザエを供える風習があるが、もともと関西はハマグリ、関東はサザエだったという。
江戸初期の『料理物語』(1643年)には、壷焼や刺身、煮物、粕漬けが記載されている。
サザエは冷凍室で保存し、その都度、壷焼にして楽しめるが、冷蔵室で保管しておいて死んでしまったものは鮮度が悪く、食べない方がよい。
  壷焼・・・・素朴な方法は、そのまま加熱して最後に少量の醤油をたらして出来上がり。身と内臓がうまく取り出せ
        た時は一種の喜びを感じつつ、あのほろ苦さを味わう。ただ、砂袋のジャリジャリが気になるので、そこ
        をよけて食べればよい。料理屋では身と内臓を取り出し、身を薄く切って、小さく刻んだ椎茸やエビ、ギン
        ナン、ミツバなどと共に殻へ戻し、ダシ汁で煮る。
  刺身・・・・素人が生の身を取り出すのは難しいから、専門の人にその道具を聞いて使ったほうが無難。
  内臓・・・・熱湯で霜降りにして、二杯酢やぽん酢で食べてもよし。また、醤油と砂糖で甘辛く煮ても旨い。

             素通りの できぬ壷焼き 匂わせて     石原 青龍刀
             壷焼きや にわかに一つ 沸ぎるなり      檪葉
             酒うまし 更に栄螺の にがさなど      天松 夢草


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