日本の旬・魚のお話

お問い合せ先
マダイ
マダイ
係  
部・課 企画管理部
主要扱い品目  
担当者  
TEL  
FAX  

日本の旬・魚のお話
日本の旬   魚のお話(冬の魚-9)
真鯛(まだい)
古代の我国では、鯛は朝廷への貢献に用いられていた。鎌倉時代以降、武士階級が台頭すると、鯛の見栄えする姿形がますます好まれ、室町時代には鯛を上物とする和食の習慣が定まった。その後、「めでたい」などの語呂合せに意味を求める風習や、赤い色を貴色とする仏教や儒教の影響も加わって、江戸時代には「魚の王」とまでもてはやされる様になった。
鯛は、我国の食習慣と美意識にかなっている上、美味であり、まさに三拍子揃った魚である。よく桜鯛などと呼ばれる春は、産卵直前のメスよりオスのほうが旨く、晩秋の紅葉鯛と呼ばれる頃では、オスもメスも脂がのりつつも上品な味となる。

           俎板(まないた)に 鱗ちりしく 桜鯛       子 規
命名
我国の石器時代の人達も鯛を賞味していたことが貝塚の発掘から判っており、タイの呼名は非常に古くからあったと推測される。
『大言海』には、「平魚(たいらうお)」の意とあり、『廷喜式』には「平魚(たひ)」、『辞海』には「まだい・平魚・赤女・・・」としてある。どの古典にも「タイ」は「タヒ」、「アカタヒ」、「アカメ」、「ヒラウオ」などの名によって記録されており、「タ」は「平たいこと」、「イ」や「ヒ」は「魚(いお)」の意で「平たい魚」が鯛の呼称の語源であろう。
地方名
平家(下関)・・・・・・・・ヘイケの「ケ」は魚名語尾であるから、ヘイケの語意は「平魚」と解することが出来る。
前の魚(西宮)・・・・・・西宮市(兵庫県)の戎神社の前の海で獲れた真鯛を「戎様鯛」の意で呼んだ。
目ぬけ鯛(各地)・・・・タイは明るい所や生簀に永く生かしておくと、眼球が飛び出したり、落ちたり、眼窩が陥没したり
             する。目ぬけ鯛とはこのようなタイの呼名で、無論まずい。
麦藁鯛(瀬戸内)・・・・産卵後の真鯛の呼名。麦刈の頃はちょうど産卵後にあたり、「骨の芯が空になっていて麦藁の
             よう」という意味から、最もまずい時期の真鯛をいう。
にがり鯛(長崎)・・・・・産卵後のまずいタイの呼名。
ひし(長崎)・・・・・・・・・ヒシは平たいことをいう方言で、真鯛の幼魚をいう。
やき(三重) ・・・・・・・・八寸の若鯛の呼名。『広辞苑』には、「きは寸、古代の尺度の単位で、ほぼ現代の寸の長さにあ
             たる」とある。
茶利子(関西)・・・・・・関西で若魚をいう。「チャリンコ」という方言は小僧っ子の意で、チャリコはチャリンコの縮語。つ
             まり「未成魚」の意。
かすご(各地)・・・・・・当歳魚をいう。「カス」は方言で「屑もの」や「生意気者」などの意味。大きな目をむいたような顔
             つきから、生意気な小鯛の意。
   英名 Red seabream, Red snapper
スズキ目タイ科マダイ亜科マダイ属マダイ
1988年の時点で、日本産の魚種は37目315科3362種。そのうち最大グループはスズキ目で1416種あり、魚全体の42%という大派閥。
タイ科には6亜科29属100種あり、日本産のタイ科はそのうち3亜科7属13種。
    マダイ亜科(4種)・・・マダイチダイヒレコダイ・タイワンダイ
    キダイ亜科(3種)・・・キダイ(レンコダイ)・キビレアカレンコ・ホシレンコ
    ヘダイ亜科(6種)・・・ヘダイクロダイキチヌ・ミナミクロダイ・ナンヨウチヌ・オーストラリアチヌ
        ※下線の7種以外は戦後見つかったもの。
形態
タイの形は棲む場所によって異なるが、体高はタイ類の中で比較的低く、体長の半分以下。尾ビレの後縁は黒く、体側背部に群青色の小斑点が散在するが、死後この小斑は暗色に変色する。
頑丈な体つき、硬く引き締まった筋肉、鍬形(くわがた)の胸ビレと腹ビレ、上下に広がって先端の尖った大きく強い尾ビレ、頑固なトゲに支えられた背ビレなど、これらタイの造作すべてが、障害物が多くて流れの速い岩礁性の海底近くに棲むことが出来る上に回遊性も持つという生態に、活発な生活を保証しているのであろう。
分布
北海道南部以南から朝鮮や台湾を経て南シナ海まで分布するが、琉球諸島周辺には棲息しない。沿岸の地先に滞留し、ほとんど回遊しない群と、大きく南北に回遊する群がある。
東シナ海や黄海の回遊群では、渤海沿岸で育った幼魚が秋に南下して冬は済州島南西海域で越冬し、その後、春期に元に戻るという南北回遊を毎年繰り返すことが明らかになっている。
また、日本海中部でも季節的に南北回遊を行う群が知られており、これは春から夏にかけて秋は周辺で生活し、秋から冬に新潟へ移動するという。
水深200m以浅の岩礁域や周辺の砂泥底に棲息し、水深50m前後に多く、春は浅場、冬は沖合いの深場という季節的な深浅移動を行っている。
雌雄同体
タイ科は、ベラ科やハタ科と並んで、最も早くから雌雄同体現象が知られた草分的なグループで、赤色系のタイは雌から雄に、クロダイなどの黒色系のタイでは雄から雌に性転換する事が判っている。マダイでは、4歳まで両性生殖腺を持つ現象がみられ、2歳頃に多くが雄へと性転換するが、成熟するとほぼ半数づつの雌と雄になる。台湾産のマダイでは、産卵後にメスがオスに変わるが、全部一変にオスに変わるのでなく、各年齢別群のどれにもメスがいる。一生オスに変わらずメスのまま過ごす「生涯メス」もいる。
産卵
春から夏にかけて行われ、南方海域で早く、北へ行くにつれて遅くなる。瀬戸内で4〜5月、山形県で6〜7月。産卵に参加するのは4歳魚から10歳魚ぐらいまでで、毎年産卵する。養殖タイは2歳魚で成熟するものもある。
産卵期になるとオスは黒ずんでセピア色となり、メスをはげしく追いまわす熱心な求愛行動を繰り返した後、海面近くで雌雄が腹を合わせてほとんど同時に放卵放精する。
水温15〜20℃で日没頃から産卵が始まる。多回産卵で、1回あたり15〜20万粒の産卵を5〜10回程度繰り返す。卵は球形で1mm前後の分離浮性卵。孵化は水温15〜20℃で60〜90時間、20℃で40〜50時間。孵化率は海水の濁りにも影響され、濁度50ppmで70%前後、200ppm以上では50%以下に低下する。
成長
孵化後2日で3mm、1ヶ月で10mm前後に成長し、成魚と同じヒレになって水深5mの藻などが繁茂する砂泥底に移行する。幼魚は視覚がまず発達し、昼間行動するが、成長につれて深場に移行し、臭覚も発達してきて夜間行動を行うようになる。
棲息場所の水温によって成長も異なるが、1年で10cm・70g、2年で15〜20cm・250g、3年で20〜30cm・250〜500g、10年で50〜60cm・4〜5kgに成長する。マダイはタイの中でも長生きするほうで、約20年は生きる。
漁場と漁法
関西の方が昔から白身魚を重視する傾向にあり、加えてタイの水揚げ漁港も西日本に多い。水揚げ量の多い県は愛媛、長崎、熊本、大分、山口、石川、兵庫、和歌山である。漁法によってもタイの市場価格は大きくかわる。
   1.釣り・・・・・活け物。
   2.吾智網(船曳き網)
       ・・・・・・明石海峡で行われている漁法で、網を流してから引き揚げる時間が短く、活けで水揚げする。
   3.刺網・・・・・同じ網でもかかった時間に差があり、質に差が出る。
   4.定置網
   5.小型底引き網
   6.以西底引き網
   7.延縄など
養殖鯛
タイ全体の供給量は約10万トンで、内訳は天然物が1.5万トン、輸入物0.7万トン(ニュージーランド75%、中国20%)、養殖物8万トンで、今やタイの市場は養殖物なしに語れないのが現状である。
養殖鯛の主な産地は愛媛、三重、長崎、熊本で、約80%のシェアを占めている。近年は養殖技術の向上で身質が良くなり、中には養殖鯛のほうが脂がのっていて美味しいものもあるかもしれない。
養殖鯛は、運動不足の上に脂肪と水分が多く、身そのものが柔らかいために早く弾力を失いやすい。つまり「締まり」が早いのだが、そのため出来るだけ活けで流通させ、締めたら時間をおかずに早く刺身にするのが美味しく食べる方法であり、煮炊きなどの加熱調理にはあまり向かない。
明石の鯛
「日本一の鯛」と評価が高いのは、「海と漁師と魚屋」の3拍子が揃っているからである。
  1.明石海峡の潮流は激しい為、身が締まる。また、いろいろな魚が豊富に棲める複雑な地形を持ち、したがって
    餌が豊富にある。明石のタコには足の少ないのが1割前後あるというのも、小さい時にタイに食べられた為らし
    い。
  2.深場から急に揚げたタイは浮き袋が膨らんでしまうが、漁師が肛門から針で空気を抜いてやることでこれを防
    ぐ。「針刺し三年」と言われる熟練の技で、浮き袋の近くには大事な神経が走っており、傷つけるとタイが死ん
    でしまうという。また、空気を抜いたらすぐ船の生簀にいれ、真直ぐに泳げないタイには発砲スチロールの浮き
    や軽い重りをつけてやったり、軍手を使って体温が伝わらないようにしたりと、大切に扱っている。
  3.魚屋が「活け越し」、「活け締め」の技術を持つことにある。
活け越し・活け締め
水槽に蓋をし、海の中のように暗く静かにして一晩過ごさせることを「活け越し」という。これにより、網にかかったことによるストレスと体の老廃物を無くして体力を回復させ、タイの体から餌の臭みも消せる。ただし、3日以上おくと身が痩せて味も香りも落ちてしまう。
「活け締め」とは、「活かった」状態を出来るだけ長く維持させる締め方。
活け越ししたタイの頭を手鉤(てがき)でひと刺しし、エラの下で神経を切ると、脳は死ぬが神経には指令が残っていて臓器は生きている状態のため、体力を消耗してしまう。そこで「神経抜き」といって、ピアノ線を背骨に通して脊髄を破壊することで、完全に生命活動を止めさせ死後硬直を遅らせる。
この技術は、明石では江戸時代からあったと言われている。
鯛中鯛(たいのたい)
胸ビレの付根にある、肩帯を構成するいくつかの小骨の一つで、鳥啄骨(うがいこつ)という。魚の形をしているので「鯛中鯛」という。昔は、粋すじの女性が財布の中や帯のあいだに忍ばせ、お守りとした。
鳴門骨(なるとぼね)
背骨(後方部)の一部の骨が異常に肥大化したもを言う。「荒波越した鳴門のこぶだい」というように、鳴門で獲れるタイのような、外海で荒波にもまれてきたタイに生ずるとされていて、「鳴門コブ」などとも呼ばれている。
関東や東海のタイにはほとんど見ることはないが、西日本の海で獲れるタイには時々このコブが見られる。
鯛の旨味
マダイの身肉には甘味のある旨味があり、それが刺身や活き造りに人気がある理由であろう。活き締め直後より冷蔵庫で一晩熟成させたもののほうが、旨味も甘味も強い。
歯ごたえなどを楽しむには活け造りを、鯛本来の旨味を味わうには刺身であろう。タイの身肉には、エビやカニ、タコ、イカなどの旨味成分であるタウリンが多く含まれ、また、味のコクを左右するイノシン酸やクレアチン、クレアチニンが旨味を引き出させている。


        海の色 変わる鯛網 しぼるとき    塩川 雄三
        春雷や 暗き厨の 桜鯛             秋桜子
        われのみの あら煮所望や 桜鯛   朧   春一


ウィンドウを閉じる