日本の旬・魚のお話

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日本の旬・魚のお話
日本の旬   魚のお話(冬の魚-8)
片口鰯(かたくちいわし)
日本人の栄養源として食生活を支えてきたイワシは、各地の行事や祝事などの供物としても人々の心に慈雨のような潤いをもたらした。稲作に重要な肥料、おせち料理に欠かせない田作りなど、片口鰯は子孫繁栄の儀を祝う魚としても貴重なものであった。
片口鰯は鮮度落ちが早いので、シラス干し(チリメン)や煮干に加工するほうが多い。
旬は冬で、千葉県南部の房州では、冬の物はマイワシよりも刺身として好まれる。

        ひしこ(片口鰯) 売る 声ゆきよりし 露地めざむ   知水
命名
目が大きく、口は広く開き、上顎が下顎よりも前方に出ており、口の形が片寄って見えることからの呼び名。別名ヒシコ(鯤)とも呼ばれる。
地方名
片口鰯と正式名で呼ぶ地方は案外と少なく、僅かに鳥取、富山、三崎、小名浜、下関あたりで常用されているのみ。殆ど方言で呼ばれ、数は百種類ほどもある。
シコ・シコイワシ(東京) ・・・・・・シコはこの魚の別名ヒシコからの転訛。
背黒(せぐろ)鰯(常磐・房州)
                ・・・・背が黒っぽいところから。この地方のサイズ別呼び名は、
                   坊主白子(仔魚)→カエリ(稚魚)→ジャミ背黒(5-8cm)→中背黒(8-10cm)→
                                       ゴボウ背黒(12-13cm)→大ゴボウ背黒(12-15cm)。
狼(おおかみ)鰯(静岡)・・・・・・・大きく口が裂けたように開き、狼の口に似ているところから。
脹眼(はんがん)(富山)・・・・・・・眼が脹れたように大きいことから。
金山(かなやま)(岸和田)・・・・・魚が大漁に獲れることを「金山」といい、それによって大きな収入があることをいう。
丸(まる)(静岡)・・・・・・・・・・・・・マイワシを「平(ひら)」と呼ぶのに対し「丸」の名で呼ぶ。
ヒラレ(浜名湖)・・・・・・・・・・・・・馬鹿者のことを方言で「ヒラレ」という。死ぬと大きく口を開いたままになることから。
田作り・鮓(ごまめ)・五万米(ごまめ)(各地)
                ・・・・幼魚(5〜6cm)を素干しにしたものを言う。稲作の肥料として重要な資源で、沢山の米
                   が採れたことから呼ばれた。おせち料理の一品は、これを煎って甘辛い味にしたもの。
ドロメ(土佐) ・・・・・・・・・・・・・・・まるで泥の中に眼だけが点々とある様に見えるところから呼ばれる名前。生で食べる
                   「どろめ料理」として有名。
その他に、ママゴ、エタレ、クロタレ、シラス、タレクチ、チリメン、マルなど、紹介しきりれないほどある。

               頭から 食べて鰯に 味があり    大雄
ニシン目カタクチイワシ科カタクチイワシ属
日本近海にはカタクチイワシを含め、エツ、オオイワシ、ツマリエツ、インドアイノコイワシ、台湾アイノコイワシ、ミズスルメ、朝鮮タレクチの8種が棲息。
世界的にはペルー沖のアンチョベータが有名で、1970年には1306万トンと我国の総漁獲量を上回る程であった。尚、マイワシやウルメイワシはニシン科で親戚筋にあたる。
分布
世界的には、日本近海(片口鰯)、カリフォルニア、ヨーロッパ(モト片口鰯)、北米東岸と南米東岸(銀色片口鰯)、ペルー(アンチョベータ)、アルゼンチン、オーストリラア、南アフリカと、8グループある。
日本では、樺太からフィリピンにかけて4群が分布し、三陸から熊野灘にかけての本州太平洋系群、紀伊水道から日向灘にかけての九州太平洋系群、山陰から九州西岸にかけての九州西岸系群、若狭湾以北の日本海系群に分けられる。
昼間は縦長の楕円形の群をつくり、水深10m以浅を群泳するが、夜間は長平形の群で休息をする。捕食者からの逃避行動では、群れが海面にさざ波を立てたり、跳躍したりする。こうした行動を「セリ」や「ハネ」と呼ぶ。
形態
上顎に比べて下顎が著しく短く、体側の頭部から尾部にかけて銀色の縦縞が1本走る。体が細長く、腹側のへりにある綾鱗と呼ばれる三角形の尖った鱗がマイワシと比べて無く、体の割には口が大きい。体の中央部を輪切りにすると、マイワシは卵型をしているのに対し、片口鰯は円形型で、体長は平均13〜14cmあり、重さは20g程度。
産卵
産卵期は長く、南日本ではほぼ周年にわたって産卵する。産卵期の水温は12〜29℃で、最適水温は17℃前後。発生時の水温によって脊椎骨数や鰭条数などが異なり、また、卵の大きさも春子は小さく、秋子は大きい傾向にある。産卵数は6千〜2万粒で楕円形をしており、分離浮性卵で、孵化は水温17℃なら70時間。
成長
孵化直後は2〜3mm、40日後で1cm、65日後で2cmになる。1cmに育つまでの生存率はたったの0.1%である。1.5cm以下の稚魚は沿岸域に多く、これ以上になると沖合へ移動する。
1年後で8〜9cm、2年後で13cmになる。仔稚魚は小型甲殻類の幼生を食べ、4cmになるとミジンコ類を、4.5cmを超えると動物性と植物性プランクトンをほぼ同じ比率で食べる食生活となる。生存は、マイワシの7年前後に対して2年前後と短い。
漁法と漁期 
巻網を中心にパッチ網、定置網、船曳網などで漁獲する。
漁期は周年漁獲であるが、8月と11月の2回が最盛期。地域別では、北海道や東北で秋、日本海で春と秋、関東及び中部で夏と冬、瀬戸内では夏と秋が多い。
また、シラス漁は4〜6月の春漁、7〜8月の夏漁、9〜12月の秋冬漁で、1月から3月はあまり獲れない。品質の良いとされているのは秋冬漁で、次いで夏漁といわれる。
漁獲量は、1980年は15万トン、1990年は32万トン、1995年は25万トン、2000年は38万トン、2004年は50万トン。
日本最初の缶詰 
明治4年、松田雅典が長崎でフランス人のデューリーに習い、イワシのオイル漬け缶詰を作ったのが缶詰の始まり。名付けて「無気貯蔵」。
エルニーニョ現象
地球の自転が遅い時に発生し易いといわれている。ペルー沖の水温が高くなって対流が盛んになるため、砂漠に雨が降る。逆に、いつも高温多湿のインドネシアは雨が少なくなり、山火事が発生する。また、子午線面循環とジェット気流の蛇行を通して日本では暖冬冷夏になりやすい。
このエルニーニョは、赤道貿易風が作る赤道面の大気循環と海との相互作用である。世界的な資源であるペルー沖のアンチョベータも、全盛期の1300万トンが9万トンに激減したように、世界経済に大きな影響を及ぼす。
煮干(いりこ) 
10cmぐらいを湯がいて干したもので、関東では「煮干」、西日本では「いりこ」と呼ぶ。因みに背側へ反り返った物は、加工する時にすでに鮮度が落ちて腹が割れているため、二級品となる。腹側へ折れ曲り、鱗もついていて銀光りし、香ばしく香るのが上級品とされる。
煮干全体の生産量は4〜8万トンで、イワシが約半分を占める。近年では自然もの、天然もの、健康食品という観点で見直されつつあり、特に加工用のめん汁やラーメン汁への需要が伸びている。酸化防止剤として、使用禁止解除になったBHA(ブチルハイドロキシアニソール)、ビタミンE、脱酵素剤、酸素透過性の低いフィルム(クラレのエバール)などを使用している。無添加もあるが、脂の多い原料のときは脂焼けによる酸敗脂質が健康を害す為、酸化防止剤を使用した方が良い場合もある。
原料がマイワシである平子(ひらこ)煮干は関東で人気があり、片口鰯はタレ煮干と呼ばれる。生産量は長崎県1万トン、千葉6千トン、茨城5千トン、鳥取2千トン、瀬戸内6千トン。

             鰯雲 郷愁が湧く 物干し場    はく
畳鰯(たたみいわし)
生のまま、乾燥海苔を作る要領ですだれに付けて干したもの。以前は湘南腰越が名産であった。厚すぎても薄すぎても駄目で、嘘か誠か、五枚重ねて富士山がうっすらと透けて見えるのが上等品などといわれている。
しらす干し(チリメンジャコ)
獲れたイワシは、すぐ鮮度落ちするため、塩茹にする。夏場は保存性を高めることもあり、塩分の高めのものが多い。茹で揚げて干さないものを釜揚げチリメンと呼び、この水分含量は80%。干した物を関東では白子(しらす)干しと呼び、水分含量は60〜65%と多い。関西ではこれを太白チリメンと呼ぶが、好まれるのはチリメンジャコと呼ばれる水分含量40〜45%の中上乾物や30〜35%の上乾物。尚、マイワシのチリメンは平子チリメンと呼ぶ。
生産量は約30千トン前後。近年はインドネシアや韓国、中国、タイなどから5〜6千トン輸入される。
味醂干し
手開きし、漬け汁で味付けし、三列に四尾ほど重ね、白ごまをパラパラと振って、濃い目の飴色に干し上げたもの。味醂干しというが、味醂は使わず味付けは砂糖である。
缶詰のアンチョビー 
片口鰯の塩漬けをオリーブ油に漬込んだもので、イタリア料理によく使われる。
俗諺
ゴマメの歯ぎしり・・・・・・・・・力がないのにやたらと憤慨する様をあざけていう。
ゴマメの魚(とと)交じり・・・・分不相応な高い地位の人達や、優れたグループと交際していることをたとえる。
ゴマメでも尾頭付き・・・・・・どんなにちっぽけでも尾頭が付いていれば立派な魚。姿形は小さくても少しも卑屈になる
                 ことはないというたとえ。
鰯の頭は雁の味・・・・・・・・イワシは頭が一番旨いという意。
茶漬けにヒシコの望み・・・・ヒシコは片口鰯のことで、何はなくてもせめて茶漬けのおかずにイワシぐらい食べたいと
                 いう意で、ささやかな願望のこと。
食べ方
他の魚より鮮度が勝負。
まずウロコが多く、眼が真っ黒に澄み、腹はしっかりし、魚体が銀光りして反り返ったものを選ぶ。大型の物は手開きにして刺身にし、醤油やアサツキ、ワケギ、万能小ネギなどの小口切りを添え、スダチかユズ、レモン汁をしぼる。中型の物は揚げ物、天プラ、フライによい。
  白子干し・・・・・・・・大根おろし、すまし汁の椀種、卵巻き、酢の物
  煮干 ・・・・・・・・・・・味噌汁、麺つゆ、煮物のだし取り
  日干し・・・・・・・・・・焼き物
  すり身(つみれ)・・・おでん、鍋物の具
オイルサーディンやアンチョビーの缶詰は、軽く味を整えてオードブルやサラダに使ったり、スパゲティやピザなどに使う。トマトソースやチーズと相性がよく、レモンを添えると臭みも和らぐ。


           大漁の 旗押し立てて ひしこ船        榊原 十久子
           鰯雲 沖へひろごり 地曳網           山本 悠水
           ひしこ干す 海の碧さに 指染めて       園部 雨汀 


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