日本の旬・魚のお話

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日本の旬・魚のお話
日本の旬   魚のお話(秋の魚-26)
真鰯(まいわし)
「海の米」や「海の牧草」とまでいわれる重要なタンパク資源である。
近年は漁獲量が激減し、近い将来においては「幻の魚」、或るいは「超高級魚」になる可能性が無きにしもあらずで、今のうちに十分味わっておくというのもあながち笑い話とは言えない昨今である。
一応、旬は産卵前である秋から冬になるが、春先も季語に「春鰯」とある様に捨てがたい。季節を問わず美味しく、鮮度こそ第一である。
         うつくしや 鰯の肌の 濃さ淡さ      小島政二郎
命名
「魚」偏に「弱」をつけて「鰯」という漢字があてられる様になったのは、水揚げするとウロコが落ち、外圧にも弱いためにすぐ死んでしまうほど弱い魚というところからきている。また、鯨や鰹などに追われてその餌になってしまうほど弱いことも、その理由の一つかもしれない。
大量に獲れて鮮度低下の早い魚というところから、下賤な魚、つまり「賤しい」から転じた呼び名という説もある。
宮中の女房言葉としては、「紫」、「御紫(おむらさき)」、「御細(おおそ)」というのもある。
大きさによって白子(シラス)、平子(ヒラゴ・2cm)、かえり(4cm)、小羽(コバ・10cm)、中羽(チュウバ・15cm)、大羽(オオバ・20cm以上)と呼んでいる。
地方名
平(関東・関西・四国)・・・腹部が平たいこと。
ヤシ(福島)・・・・・・・・・・・イワシの語源を「賤し」とする説から、賤しを略して。
ネコモリ(富山)・・・・・・・・旨いので猫が側を離れない。
七つ星(東北)・・・・・・・・・体側にある黒色斑が七つ以上あるものが多いことから。
両口(もろくち) ・・・・・・・・片口鰯に対応して。
英名 Japanese pilchard. Sardine. Sptline sardin.
マイワシの祖先
マイワシは温帯水域(13〜25℃)の日本、カルファルニア、チリ、オーストラリア及びニュージーランド、南アフリカの5海域に棲息し、そのうち、南アフリカの集団は、比較的新しい時代にオーストラリア及びニュージーランドの周辺に棲息する集団から分れたことが、遺伝子型の分類から明らかとなった。
水産庁養殖研究所の岡崎登志夫らは、DNA鑑定結果から、マイワシが300万年前にカルファルニアやチリ沿岸などの太平洋東部で誕生したことを1996年に発表した。300万年前はパナマ海峡が出来た頃で、大西洋にマイワシが棲息しないということが、このことからうなずける。
ニシン目ニシン科マイワシ属マイワシ
世界中に300種以上あるといわれ、我国沿岸に分布しているイワシは3科18属26種あるといわれる。
マイワシにとってウルメイワシは近い親戚、カタクチイワシは遠い親戚にあたる。
    ニシン科(17種)  ニシン亜科・・・・・・・・ニシン・マイワシ・サッパ・ヒラ
                ウルメイワシ亜科
                コノシロ亜科
                キビナゴ亜科
    カタクチイワシ科(8種)・・・・・・・・カタクチイワシ・エツ・オオイワシ
    オキイワシ科(1種)・・・・・・・・・・・オキイワシ
形態
別名七つ星と呼ばれる通り、瞳よりやや小さな黒点が7つ以上体軸に沿って一列に並び、さらにその上や下に不明瞭なものが1〜2列並んでいる。
腹ヒレが背鰭のほぼ真下にあり、片口鰯とウルメイワシの中間の位置である。また、体の中央部を輪切りにした断面を見ると、片口鰯が円型をしているのに対し、マイワシは卵型となっている。
体側面には尖った三角形の稜鱗(りょうりん)というウロコが並んでいるが、鮮度が落ちるとこのウロコがとれ、背の濃い青色と腹部の銀白色や黒点もぼやけ、目も赤味を増してくる。
分布
樺太から台湾の沿岸に分布し、三陸から土佐湾にかけて棲息する太平洋系群、豊後水道から日向灘にかけての足摺岬系群、若狭湾から九州西岸域にかけての九州系群、若狭湾以北の日本海系群という4群があると云われている。
各系群の分布域は年によって変化するが、これは資源量の変動を伴うものであり、資源量が多い時は太平洋系群と足摺岬系群、九州系群と日本海系群の交流が増大する傾向にある。
平均遊泳速度はマイワシで26km/日、片口鰯で13km/日と行動範囲も広い。
産卵
生まれて1年半頃から産卵に参加する。時期は初冬から晩春にかけてで、津軽海峡では1〜6月、関東から東海では3〜6月、土佐湾〜日向灘では11〜4月、山陰では3〜6月、山口〜九州西岸では12〜4月である。
産卵する水温は10〜20℃で、盛期は13〜16℃。産卵数は場所によって異なり、秋田では1〜11万粒、鳥取では5万粒、長崎で1〜3万粒である。
産卵は日没から真夜中にかけて行われ、卵は円形で直径1mm、水深20m以浅に浮遊する。孵化は水温15℃で80時間、20℃で30時間前後。
成長
孵化直後は3mmで、4mmほどの仔稚魚は水深20〜50mに多く、成長するにつれて表層に移動する。全長7mmを超えると日周的な垂直移動を行い、昼間は15〜50m、夜間は15m以浅に多く見られる。30日前後で35mm、60日で60mmに成長する。全長15mmになるまでに生き残れるのは、なんと0.1%に満たない。
1年で15cm、2年で18cm、3年で20cmになる。寿命は5年で、なかには7〜8年魚も見られる。
幼魚はオキアミ類や貝類、植物プランクトンを食べるようになる。摂餌行動は日中に活発で濃密な群をつくり、餌をむさぼり食う。
餌の採り方
口をいっぱいに広げて全速力で泳ぎ、口の中の鰓(えら)で濾(こ)しとる。鰓の前方に鰓耙(さいは)という篩(ふるい)の役割をする器官がある。その間隔は体の小さい片口鰯の方が広く、マイワシの方が狭い。
鰓耙の隙間の大小で濾しとる餌の大きさが異なり、マイワシは主に植物プランクトンから小型動物プランクトンを食べる。一方、片口鰯は動物プランクトンを中心に食べている。
漁法と漁期
巻網が中心で、他に定置網、刺し網がある。
盛魚期は、太平洋沿岸においては小羽が千葉以北で6〜7月、中部以南で10〜12月、中羽は千葉以北が9〜1月、中部では10〜12月、大羽は中部では4〜5月、南部が12〜4月。日本海沿岸においては北海道南部から若狭湾までが小羽、中羽とも7〜8月、山口は6〜11月。
魚種の交替
マイワシの漁獲量は1988年の488万トンが最高で、50〜70年周期で増減を繰り返し、2000年は15万トンに減少した。
この漁獲量の変動の原因は未だ明らかではないが、安定した温暖期や極端な寒冷期には不漁であり、寒冷期から温暖期に、また、その逆の変動期に豊漁が認められる。これらは餌の増減やイワシ自身の体質の変化に起因するのであろうか。
下の表を見るとマイワシから片口鰯、アジ類、サンマ、そしてサバ類の順で魚種の交替が起きている。

マイワシと地球の自転
地球の自転が速くなれば、相関関係によって大気の運動量が増し、風の循環が強まる。
これによる湧昇流の発生やその強まり、日射量の増加などが起こり、基礎生産量が増えていく。
また、黒潮が蛇行期に入ることで大型の断水塊が出来やすくなり、結果的に地球規模で海洋生産量が高まるが、これらがマイワシ資源の増減周期と一致している。
レジーム・シフト(基本構造の転換)
東北大学名誉教授の川崎健氏が、「気候や海洋環境が数十年単位で変化する為、魚の数も周期的に変動する」という仮説を1985年頃に発表した。
その後、様々な研究によって、アリューシャン列島付近で冬に発生する低気圧の活動の弱まりが、イワシの増減についての環境要因の正体である事が判ってきた。
低気圧の活動が弱まると海水の温度が上がり、餌のプランクトンが減少してイワシの稚魚の育成が悪くなる。また、温暖な海域に生息するカツオやマグロが北上し、稚魚が彼らの餌になってしまうのである。
イワシ増減100年周期説
愛知大の加三千宣研究員らは、瀬戸内海別府湾の水深70mの海底から厚さ4mの地層を採取し、ウロコの数から年代別数量変化を計算した。
2007年5月の研究発表によると、日本近海では不漁期が西暦600年代の飛鳥時代から約800年間は続いたが、室町時代の1400年以降は100年周期で増減を繰り返しており、最近では1900年前後に減少した後、1930年頃に増加のピークが見られた。また、生息数は、日本近海と太平洋東岸で同じような周期変化をしていたが、1800年頃から日本近海が増えると太平洋東岸が減るという逆パターンを示すようになったこともわかった。この説から推測すると、今世紀半ば頃に大漁期が訪れることになる。
紫式部とイワシ
江戸時代の書物「倭訓栞(わくんしおり)」に、紫式部がイワシ好きで、夫の留守中に隠れて焼いて食べていたのを夫に見つかり、「賤しい物を食べる」と非難されたとある。この時、紫式部が即座に返した歌が、「日の本(もと)に はやらせ給(たま)う いわしみず 参(ま)いらぬ人は あらじとぞ思う」である。
当時、誰もが石清水八幡宮にお参りしていた様に、鰯を食べない人はありませんよと石清水にイワシをかけて詠んでいる。
この挿話は室町時代の「猿源氏草子」では、和泉式部として書かれている。
節分とイワシ
立春前日の節分に、鬼を払う意味で柊(ひいらぎ)の小枝にイワシの頭を刺して門口に立て、その宵には「鬼は外、福は内」と呼びながら豆を撒(ま)く風習がある。
イワシは鮮度落ちが早く、生臭い悪臭を放つので、鬼すら退散するとのおまじないだろう。「イワシの頭も信心から」という俗諺の由来にもなっている。
加工品
およそ漁獲量の9割は餌用や肥料に、加工品の7割は煮干として利用される。
また、畳イワシ、平子ちりめん、しらす干し、釜揚げ、飴煮の佃煮、みりん干し、いりこ煮干、削節、日干し、目刺、頬刺、つみれ、はんぺん、煉製品、かまぼこの原料となる。
地方ごとに、秋田では「しょつる」の原料、富山や石川では「糠漬け」、静岡や八幡浜では「はんぺん(じゃこてん)」、熊本では燻製かまぼこの原料となり、また、魚油から抽出したEPA、DHAの健康維持促進剤に使われるなど、さまざまに利用されている。
食べ方
イワシやニシンの仲間は、背骨は硬いがヒレは軟らかく、小骨が多い。また、血合いが多く、うま味となるイノシン酸の分解や脂肪の酸化速度がマグロやタイなどに比べてすこぶる速いので、腐りやすい。よって鮮度がポイントとなる。
刺身は手開きし、生姜醤油で食べる。煮付は梅干しと酢や味噌で。そのほかは塩焼き、唐揚げ、フライ、ハンバーグ等など。
しらす干しは、おろし和え、すまし汁の椀種、卵巻き、酢の物、かき揚げ、ふりかけ、お茶漬け等など。

    『大漁』 金子みすゞ        朝やけ小やけだ 大漁だ
                        大羽いわしの 大漁だ
                        浜は祭りのようだけど
                        海のなかでは 何万の
                        いわしのとむらい するだろう

    金子みすゞ(1903〜30) ・・・・大正末から昭和初期に活躍し、26歳の若さで夭折した童謡詩人。彼女の活躍
                       した時代は20世紀最初のマイワシの豊漁期にさしかかった頃であり、彼女の
                       生まれ故郷の仙崎(山口県)の浜も連日大漁で、にぎわっていたことだろう。


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