日本の旬・魚のお話

お問い合せ先
アワビ
アワビ(マガタアワビ)
係  
部・課 企画管理部
主要扱い品目  
担当者  
TEL  
FAX  

日本の旬・魚のお話
日本の旬   魚のお話(夏の魚-13)
鮑(あわび)
縄文時代の遺跡からもアワビ殻が出土し、また邪馬台国の女王卑弥呼に始まるそれぞれの時代の天下人の食卓に必ずアワビがのっていたとのことで、昔から日本人の食生活に重要な位置を占めてきた。
また、貝を食材とした日本料理のうち、料理の種類が一番多いのもアワビである。この姿、形、味と、まさに貝の王様である。
『魚鑑』に「志摩の鮮鮑」とある。志摩半島(三重)の海女のアワビ採りは夏の風物詩でもある。また、最も美味しいのもこの夏である。

            海女沈む 海に遊覧 船浮む      高浜 虚子
命名
『桑家漢語抄(そうかかんごしょう)』(1470年)に、「阿波美(あわび)は常に片甲が岩石にかかる、逢わずわびしいの義なり」とある。『日本山海名産図会』にも、「アハビというは偏(かたかた)に着(つき)て合わざる貝なれば、合(あわ)ぬ実(身)という儀なるべし」とあって、両者とも「合(逢)わぬ身」の略転からの命名としている。
貝原益軒の『日本釈名』(1699年)にも、「合わないで光るとか、合わないで開くことからの名付け」とある。
男女の恋愛感情を磯の貝に託して片貝から情緒的にアワビと名付けたのは日本人だけのようで、ものの哀れを知る日本人の、感性豊かで繊細な想像力の表われではないだろうか。
漢字としては阿波美、阿波比、不老貝、蚫魚など18種あるが、『日本書紀』などは「蝮」、中世から近世の古文書では「蚫」、明治以降は「鮑」と書かれている。
地方名
アワビの類似音からの呼名が多い。
アービ、アオビ、オービ(伊勢志摩・和歌山)、アンビ(岩手)、アワベ(宮城)、アオブ(長崎)など。
英名 Abalone, Ear shell, Sea ear (貝の形が耳に似ているところから)
腹足網腹足目ミミガイ科アワビ属
巻貝で腹が足の裏となっていることから「腹足」と呼び、この腹足網は最も種類が多く、昆虫に次ぐ大群である。アワビ属は世界に100種、日本で10種棲息する。仲間にはトコブシがよく知られている。
アワビと呼ばれて利用されているのは、クロアワビ、マダカアワビ、メガアワビと、クロアワビの亜種であるエゾアワビの3種1亜種である。アワビの代用品として利用される南米チリ産のロコガイは、アクキガイ科で別種である。
  クロアワビ(黒鮑、クロ、アオ、オガイ、オンガイ、オン、セグロ)
    岩についている足の裏が黒味がかった青緑色をしいてることから命名。殻は薄く、殻表は凸凹が強い。殻長は
    14cm前後で、行動は夜間を中心に岩の表面に出てきて活発に動き廻り、100m以上にわたって移動すること
    もある。
  マダカアワビ(真高鮑、ユカタ、メダカ、メタカ)
    殻の背が高く、頭部触角の横にある目の位置が他のアワビより高いことから命名。日本産のアワビの中で最も
    大きくなり、殻長25cmを超える。殻に円みがあり、呼水孔は大きくもりあがっている。行動は不活発で定着性が
    強く、また、アワビの中で最も深い50m付近まで棲息する。
  メガイアワビ(女貝鮑、メカイ、メンガイ、メン、アカ)
    足の部分が淡褐色していて、なんとなく女性のように優しく見える事から命名。殻幅が低く平らで、殻表の放射
    肋がはっきりしている。殻長17cm前後。行動はマダカアワビに似ている。
  エゾアワビ(蝦夷鮑)
    殻幅に対する殻表の相対比は大きく、内唇が細かいなどの特徴が認められる。行動はクロアワビと同じ。
形態
殻は楕円形で平たく、螺旋(らせん)はきわめて緩(ゆる)い巻貝である。
呼水孔と呼ばれる低く盛り上がった孔が並ぶ。この呼水孔のうち、外側の4〜5個は開いており、呼吸に使われる。軟体部(可食部)は楕円形で、そのほとんどが筋肉部となっており、内臓部の占める割合は小さい。
分布
好適水温は13〜25℃である。但し10℃以上30℃以下の海域であれば棲息できる。
クロやマダカ、メガイアワビは、日本海側では新潟県以南、太平洋側では茨城県以南から九州、朝鮮半島の沿岸各地に分布する。
一方、エゾアワビは人工的な移植や種苗放流により、いまでは新潟県以北から利尻島、礼文島までと、津軽海峡から茨城県以北まで分布する。
産卵
産卵盛期の水温は20度前後で、クロやマダカ、メガアワビの産卵期は秋から初冬の10〜12月が産卵盛期。北のエゾアワビは早く、礼文島では7〜9月、岩手県では8〜11月が産卵盛期で、荒天候に一斉に産卵すると云われている。
アワビの卵は直径0.2〜0.3mmの球形をしており、緑色の分離沈性卵。産卵数は10万粒前後で、産卵から孵化までの時間は、水温16℃なら約20時間である。
成長
孵化直後の幼生であるトロコフォアは、24時間後には貝殻をもつ幼生のベリジャーに変態する。この幼生は体に細かい繊毛が生えており、これを使って泳ぎ、浮遊生活をする。孵化後4〜7日後で殻長0.3mmになり、着底生活に移行する。
クロやエゾアワビは、着底後3〜4週間で殻長2mmに成長し、1年後2cm、2年後3〜5cm、5年後6〜12cmに成長する。
一方、マダカやメガイアワビは2年後に7〜10cm、5年後には11〜15cmになる。棲息地域によって成長は大きく異なり、成長するにつれて深場に移動する。
藻食性で、ワカメやアラメ、カジメ類などの大型褐藻類やマクサなどの小型紅藻類を、歯舌と呼ばれるヤスリのような咀嚼器官でこそげ取って食べる。一般に100gのアワビになるのに1500gを食べる。
オスとメスの見分け方
料理人の中には青色のクロアワビをオガイ、赤色のメガイやマダカアワビをメガイと思っている人がいる。また、『本朝食鑑』にも同様なことが書かれてある。
外側の殻の色では分からないが、成熟期に達したアワビでは、殻頂の巻いた部分に収まっている生殖腺が発達し、卵巣は緑色、精巣はクリーム色をしていて見分けることが出来る。
漁法と漁獲
潜水、または鈎を用いて船上から掻き採る。現在では純天然のアワビはほとんど無く、稚貝を養殖して放流し、乱獲を防ぐ為に産卵期を中心に禁漁期を定めたり、9cm以下の殻長の個体は漁獲を制限している。
吉浜(きっぴん)アワビで有名な岩手県三陸町では、9.25cmを基準にしている。アワビは5年かかってやっと12cmにしかならないため、わずか0.25cmの差が資源保護に重要な意味を持っている。
養殖も行われており、筏式や延縄式の海面と陸上の養殖がある。
昭和60年の漁獲は約4千トンであったが、近年では2千トンに落ち込んでいる。また輸入はオーストラリアから約500トンで、輸入量の50〜60%を占める。
春先のアワビはネコにも食わすな
「つのわた」や「うろ」と呼ばれるアワビのわた(肝臓及び中腸腺)は美味ではあるが、春先にはクロロフィルaの分解物であるビオフェオフォルバイトaが蓄積し、中毒の原因となる。
このビオフェオフォルバイトaによる光過敏症により、ネコの場合は耳が脱落する。また、人間では食後、日光に当ると1〜2日後に顔や手足に発赤、はれ、疼痛をひき起こす。
アワビとコラーゲン
アワビに含まれる蛋白質は硬蛋白質であるコラーゲンが多い。その為、肉質は硬く、コリコリとした歯ごたえとして感じられる。
アワビは加熱することによって、著しく軟らかになる。これはコラーゲンが熱によってゼラチン化するためと考えられている。
俗諺
磯の鮑の片思い・・・・・アワビの殻が1枚(片貝)しかないことからきている。もっともアワビは巻貝であるから、二枚貝の
              片方を失ったと言うわけではないのだが。このことから婚礼の宴にはアワビは使われず、ハマ
              グリが用いられる。
麹町の井戸へ鮑貝を投げ込んだよう
           ・・・・麹町(江戸)の井戸は全てが深かった、その井戸の中に投げ込まれて光っている鮑貝の様子か
              ら、落ち込んだ様子をいう。

   波かける 岩根につける 鮑貝 こや片恋いの たぐいなるらん     藤原俊成(万葉集)
徐福とアワビ
「不老不死の仙薬を持ち帰れ」という秦の始皇帝の命令を受け、徐福は紀元前219年に東の海へ船出したが、徐福の船団はそのまま行方不明になり、待ちわびる始皇帝も船出から8年後、人生50年で仙薬を待たず死んでしまった。
日本には、徐福伝説にまつわる史跡が約20ヶ所もあるという。不老不死の薬とされたアワビが獲れる日本に対して、長寿国との思いを古代中国の人が抱いていたのは確かで、今でも中国には長寿を願う「鮑」という姓がある。
三海鮮
中華料理においては、乾アワビ、乾なまこ、ふかひれは三海鮮と呼ばれる高級食材で、昔から重要な輸出海産物として交易されており、とくに岩手県三陸町吉浜(きっぴん)の干しアワビは「吉浜鮑」として名高く、高値で取引されている。
熨斗鮑(のしあわび)
現代でも贈り物に「のし袋」や「のし紙」を利用しているが、これは古来、アワビの身をリンゴの皮をむくのと同じ方法で薄くむいて伸ばし、干して「のしあわび」を作ったのが、デザイン化されて現代に至ったものである。
この熨斗鮑は祭儀に際し、魚介などの生臭いものの代表として神に捧げられた。宮廷の儀式や宴、戦国武将の出陣にあたっての「三献(さんこん)の儀」の時に供されるように、吉事に欠かせないものであり、作る時に伸ばすという工程があることから、「延命延寿」や「敵をのす」めでたい食べ物とされた。
甲斐の煮貝
戦国の武将武田信玄が、戦時の保存食として考案したという言い伝えもあるが、実際には江戸時代、駿河国で採れた生アワビを腐敗防止の為に醤油樽に入れて馬の背で甲府まで運ぶうちに、煮貝に適度な味が染み込み、着いた頃には調度良い味になっていたというのが真相のようで、『中道往還むかしといま』にこの話が記されている。
食べ方
『本朝食鑑』には、「鰒は介(貝)の長であって、鰒を食べるには、生食、煮食、蒸食、乾食、塩食、糟漬食する方法」があると豊富な食べ方を挙げている。
   ・ 薄く切って、ワサビ醤油やワタと和える。
   ・ 酒蒸しやワイン蒸も美味い。
   ・ バターを使ったステーキにし、レモン汁やガーリックソースをかけると美味。
   ・ 薄く切って酒、醤油で一煮立ちさせ、煮汁で御飯を炊く。その上に貝を混ぜて蒸らすとアワビの炊き込み御飯の
    出来あがり。干アワビを使ってもよい。
   ・ 水貝 ・・・生アワビを塩で擦り、ヒモを外してからワタを取り、口をV字型に切取ったのち、1.5〜2cm角のさいの
          目に切って、薄い塩水をガラスの器に張り、氷、キュウリ、ジュンサイ、シソなどと一緒に盛った料理。
   ・ 煮貝 ・・・酒・ミリン・醤油で一煮立ちさせると、身肉が軟らかくなり、食べ易い味が染込むまで煮ておくと保存食
          となる。


        生きている 命が重し 鮑籠       嶋杏 林子
         水貝や 海の風ふく 膳の上      冠   太子
        肩越しに 海鳴りとどく 鮑飯       三田 きえ子


ウィンドウを閉じる