日本の旬・魚のお話

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日本の旬・魚のお話
日本の旬   魚のお話(夏の魚-12)
鬼虎魚(おにおこぜ)
頭の凸凹がひどく、口も大きく、体中棘(とげ)だらけという風体は オコゼ一門の中でも醜男の代表格といってもいいだろう。
なんとなく哀れを誘うほどの風貌でありながら、その醜さとは対称的に極めて美味な魚であるので、釣りの獲物として人気がある。
赤出汁の味噌汁やチリ鍋の具にするのが最高。季語も旬も夏。

                 鬼をこぜ 石にあらずと 動きけり     加藤 楸邨
命名
オコゼの名は、「オコシ」や「オコジ」として『和名抄』『新撰字鏡』に記録されている。
辞書によると、「オコ」とは「貌(かたち)の痴(おこ)なる意、笑いに価するほど愚かなること、形の奇怪にして容貌(ようぼう)醜(みにく)きものをいう。また、『オコ』の音便によって『オコシ』『オカシ』と変化して用いられる」となっている。
「シ」、「ジ」、「セ」、「ゼ」は魚名語尾でもあるから、オニオコゼの語意は「鬼のように醜い容貌の魚」ということであろう。
地方名
ボウチョオカサゴ(静岡県静浦)
              ・・・・傷などが治る際にできる瘡蓋(かさぶた)のことを「ボオチョオ」と方言で呼ぶ。「瘡蓋のでき
                 ているカサゴ」の意味であろう。また、カサゴとは「瘡魚」のことである。
ヤマノカミ(各地)・・・・・・・・・山の神は醜女であるという俗説があり、この魚の醜貌から連想されての呼名。和名の「ヤ
                 マノカミ」は淡水魚である。
イジャジャミ(淡路福良)・・・「棘棘魚」や「苛苛魚」と書いて「イライラミ」と読む呼び名の転訛呼称。「棘に毒のある魚」、
                 もしくは「怒りっぽい魚」の意で呼ぶのであろう。福良ではハオコゼも同名で呼ぶ。
ツオオコゼ(和歌山田辺)
              ・・・・頭が大きく尾部が極めて細いという魚形から、「槌(つち)形のオコゼ」の意で呼ぶのだろう。
アカオコゼ ・・・・・・・・・・・・・この種のもので、深い所に棲むものには全体に赤色のものがあり、それを「アカオコゼ」と
                 呼んでいる。
オコジン(広島)、オコジョ(新潟)
英名 Devil stinger(刺す悪魔),Poisonfish(毒のある魚)

               干潮に なりし岩根の 鬼おこぜ       山口 奈美
カサゴ目オニオコゼ科
9属30種あまりが知られており、日本にはその1/3が棲息。オニダルマオコゼは背鰭の棘の毒腺に猛毒を蓄えており、刺されると10分もしないうちに死に至ることもある。
仲間にはヒメオニオコゼ、オニダルマオコゼ、ヒメオコゼ、ダルマオコゼがいる。しかし、食用とされるのはオニオコゼの1種のみである。
ミシマオコゼ
オコゼの名がついているが、スズキ目のグループでオコゼとは別種。しかし、体形や顔付き、また、棘に毒があるなど、よく似たところがある。
名前の由来は、漁場である淡路島東南の沼島(ぬしま)が、かつて「武島」、もしくは「六島」と書いて「ムシマ」と呼ばれていたことからという。他にも、武運、海運の神をまつる瀬戸内海の大三島の大山祇神社や伊豆の三嶋大社の三嶋信仰にちなむとする説や、東海道三島宿の宿場女郎が吉原や品川宿と違ってその付近の農漁村の娘達が売られてきた醜女であったことになぞらえて呼ばれるようになったという説もある。仲間にはオオミシマ、サツオミシマ、アオミシマ、メガネウオなど。
形態
目は頭上にあって飛び出し、大きく切れ込んだ口は斜め上を向き、吻端(ふんたん)も隆起している。また、胸鰭の下端に2本の遊離軟条を持つのが特徴で、鱗は無く、赤褐色の体には殆ど全面に苔状の皮弁がある。
見るからに醜悪な形相をしている上、背鰭の棘には基部が毒腺に連なっている小棘が密生し、これに刺されると激しい疼痛に苦しむ。体色は周辺の海底状況によって変わり、沿岸では灰褐色、沖合では赤味がかっている。
分布
太平洋側は房総以南、日本海側は新潟県以南の南日本沿岸に棲息し、台湾や東シナ海にかけて分布する。水深200m以浅の泥底域に棲息する。
産卵
産卵期は初夏から盛夏で、産卵盛期の水温は20℃前後。1回の産卵量は5万粒前後で、卵は直径1.3〜1.5mmの球形をした分離浮遊卵。瀬戸内海では種苗生産を行っており、漁獲量を維持している。
成長
孵化直後の仔魚は全長3mm前後で、腹部に卵黄を持つ。孵化仔魚は透明だが、2週間ほどで色素が沈着し、茶褐色になる。孵化して半月から1ヶ月程度まで浮遊生活を行った後、全長約1cmになると底生生活に移行する。
底生の甲殻類や小魚を食べ、全長25cmぐらいまで成長する。
猟師とオコゼ
猟師は昔から、オコゼを日干しにしたものを紙に包んで魔除けのお守りにしていたという。
山奥に迷い込んで鬼婆に出会ってしまったら、喰われる前にオコゼの干し物をなるべく遠くへ投げつけるようにすると、鬼婆も自分より醜いオコゼに気を許すので、その合間に逃げ帰って来られると考えられていた。
山の神
室町時代から江戸時代にかけての民話を集めた『御伽草子』(おとぎぞうし)には、山の神がオコゼ姫に求愛する話がある。
また『本朝食鑑』にも、もし海が連日の時化で漁の出来ない時には、漁師がオコゼを山の神に供えて「風が穏やかに波が静かで、釣網の便あらしめたまえ」と祈ると、翌日、海上の風波は必ず収まり、漁の獲物が多くなると記されている。
            山の神 おこぜばかりを 食につけ     古川柳
俗諺
オコゼの面(つら)灰焼き・・・オコゼの顔を不器量な女性に見立て、醜女が顔に白粉を塗りたくった様子をいう。
山の神にオコゼ・・・・・・・・・・山の神の大好物はオコゼだという俗信があり、人が好物を前にして喜ぶ様をたとえる。
オニの名がつく魚
オニイトマキエイ、オニカサゴ、オニカマス、オニゴチ、オニハゼ等。
日本人の土俗的信仰と風習が入り交じって作り上げられた「鬼」は、すなわち「怖いけれども、日常生活に密着した一段上位の存在」という意味で、特異性のある魚に「オニ」という字をつけたのではないだろうか。
食べ方
<背鰭の処理>・・・・背鰭の両側に包丁を入れ、ペンチで取り除く。背鰭はあとで触っても毒が効くので、厚紙に包んで
            捨てるようにする。
  1.ウロコのない魚なので、塩を振ってヌメリを洗い流す。大きい物は刺身にするが、小さい物はブツ切りにして熱
    湯に入れ、アクをすくい、味噌を溶き入れ、再び沸騰しかけたら火から下して、熱いうちにすぐ食べる。ブヨブヨ
    した皮は見た目に気持ちが悪そうだが、ゼラチン質の多い皮はオニオゴゼの中でも最高に美味しい。
  2.肝はそのままか、つぶして刺身醤油に加えても良い。生臭さが気になる人は、湯にくぐらせれば絶品のひとつと
    なる。
  3.中華風あんかけ、唐揚など。頭やヒレなどは二度揚げすると食べられる。
  4.冬の関西ではチリ鍋にする。これはフグに匹敵するほどの味わいである。

             梅雨晴の 月に熊野の 虎魚漁       峰岸 新桁
              近よれば 背鰭を立てし 虎魚かな     谷 博冶
              鰭かつと 開きおこぜの 煮られたり    小倉 行子


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