日本の旬・魚のお話

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日本の旬・魚のお話
日本の旬   魚のお話(早春の魚-2)
蛤(はまぐり)
遺跡から出土した貝の80%近くがハマグリとのこと。縄文人はきっと他の貝よりも好んで食べたのだろう。
ハマグリには神話や昔話が数多くあり、また、雛祭りにはサザエと一緒に供えるという風習があるように、日本人の食文化の中で重要な地位を占めているのではないだろうか。
昔から、今の4月にあたる旧暦の3月3日の雛祭りがハマグリの食べ納めといわれる様に、冬から春先が旬。
ハマグリはアサリよりも水質の変化に敏感で、水の汚染に弱い。かつての東京湾は、昭和30年頃までハマグリの産地として8000トンの水揚げを記録していたが、現在の日本各地に共通して見られるように、水質汚濁と埋立てによる干潟の消失が減産に拍車をかけている。
「桑名の焼きハマグリ」で知られた伊勢湾にも昔の面影はない。「潮の香りを濃縮した絹のようなミルキーな風味」を持つハマグリも、現代では環境汚染によってもう味わうことが出来なくなってしまった。この豊かな食生活の中にあって、いわゆる「豊食の貧困」時代なのだろうか。
                   蛤も 大口明くぞ 鳴く      雲雀 一茶
命名
「浜栗」の意は、形が栗に似ているから。また、小石のことをグリといい、浜の小石の様な貝だからハマグリと呼ぶ。
「和訓栞」には「ハマグリ、蛤をよめり、浜栗の義也、色よく栗に似たり」とある。漢字では「蛤」と書くが、大蛤は「蜃(しん)」と書く。中国では昔、気象現象である蜃気楼(しんきろう)は、暖かくおだやかな日に蜃が欠伸(あくび)をすると、その吐いた気が楼閣となって空中に現れるものだと信じられていたという。
また、なぜか貝の字には虫扁の字があてられている。鮑は別として、蛤、蜷(にな)、蜆(しじみ)、浅蜊(あさり)、牡蠣(かき)、栄螺(さざえ)のように貝という字がつかない。
   英名   Hard clam(堅い殻の二枚貝),Pokerchip venus(碁石のヴィーナス)
   中国名 文蛤
軟体動物門二枚貝綱マルスダレガイ目マルスダレガイ科ハマグリ
約2億年前の中生代ジュラ紀に出現し、寒帯から熱帯海域まで分布する。世界中で400種以上、日本には130種が記録されている。
頭足類のタコやイカも、歯舌をもつことや時に殻を持つことから、貝と同じ仲間。きっと敵から身を守るため、目と皮膚を異常に発達させることですばやく動いたり体を保護色にするワザを身に付け、堅い殻を捨てたのであろう。
二枚貝の特徴は、弾力性のある靭帯(じんたい)で両殻が結ばれており、1〜2つの閉殻筋(貝柱)によって両殻を開閉する。
また、大な足と一対の水管、貝殻を作り出す外套膜(がいとうまく)がある。
二枚貝の生活スタイル
岩礁地帯に殻を固定させて一生動かないもの・・・・・・・・・・・・・カキ
足糸という附着器で海中の障害物や岩礁に附着するもの・・・イガイ・アコヤガイ
岩に穿孔(せんこう)して中に潜っているもの・・・・・・・・・・・・・・・マテガイ
貝の全部か一部を砂泥地に埋没させているもの・・・・・・・・・・・ハマグリ・アサリ・ホタテなど
形態
形は三角形に近いが丸みを帯びており、貝殻は比較的薄い。色彩変異が多く、白から淡褐色まで様々である。
通常、殻頂から褐色で幅広い放射状の縞が2帯、腹辺に向かって走っている。
近似種に、れっきとした日本産でありながら朝鮮の名が付く朝鮮蛤があり、ハマグリよりも大きく、貝殻も厚い。
また朝鮮半島から中国大陸に棲息する支那蛤は、ハマグリよりも貝殻の膨らみが強いが、非常によく似ており、見分けることはかなり難しい。味は落ちるが、日本へは多量に輸入されている。
その他、沖縄以南から西太平洋に分布する台湾蛤、台湾から中国に分布する水蛤などがある。
分布
北海道以南から九州、朝鮮半島、中国長江にかけて分布。比較的水のきれいな内湾浅海海域の砂泥底に棲息し、淡水の影響を受ける河口付近などに多い。
朝鮮蛤は外洋に面した高塩分域を棲息場所としている。通常、成貝は海底から10cm前後の砂中に潜っており、水管を直上に伸ばして呼吸する。棲息水温は8〜28℃で、これより低水温よりは高水温が長く続くと斃死する。
若い貝は粘液状の分泌物を貝の後端から出し、これを抵抗板のように使い、潮流に乗って長距離を移動することが出来る。
ちなみに毎分3〜4mの潮流がある場所では分速1m前後移動する。
産卵
東北地方では7〜9月、伊勢湾5〜7月、有明海では6月が産卵のピーク。
産卵適水温は20〜25℃で、卵は直径0.6〜0.8mmの球形をしている。20日前後の浮遊生活をしたのち、3mmに成長して底生活に移行する。
成長
着底する場所は、淡水の影響を受ける低塩分の細砂底で、干潮時の干出時間が4〜6時間ある潮間帯域。照度は3〜500ルクス程度が好適地。
稚貝は越年して春になると、潮に乗って沖合いの深場へ移動する。瀬戸内海では、春から秋にかけて稚貝の深部への移動が観察される。
ハマグリは、水温11℃以下になるとほとんど成長が出来ないため、冬期はほとんど成長しない。
1年目で殻長2cm、2年目4cm、5年目5.5cm、最大8cmとなり、寿命は7〜8年。海中に浮遊する珪藻類などの植物プランクトンや海底の有機懸濁物などを食べる。外敵はヒトデ類、ツメタガイ類、カレイ類など。
産地と漁獲時期
手掘りや鋤簾(じょれん)、あるいは貝桁網で漁獲される。かつては千葉県や三重県が多産地であったが、現在では有明海が主産地となっている。
周年に渡って獲れるが、産卵期を中心に禁漁期が定められている。宮城6〜7月、茨城4〜7月、愛媛5〜9月など。
漁獲量も2000トンと年々減少し、朝鮮蛤の漁獲で補っている。支那蛤は2〜2.5万トン輸入されている。
                  蛤の 海が冷たい 母の脚     義博
俗諺
その手は桑名の焼き蛤・・・焼き蛤の名物である桑名の地名にかけて、その手は食わぬ(桑名)という意の洒落。
夏の蛤は犬も食わぬ・・・・・蛤は夏に味が落ちるという意だが、転じて浮気女は昔から嫌われるという例え。夏になる
                 と蛤は沖へ移るが、その頃はまずいばかりか、時に食中毒にかかることがあることから。
                 単に「夏の蛤」といえば浮気女のたとえである。
腐れ蛤で口が開かぬ・・・・・蛤の死貝は口を閉じたまま開かないことから、呆れてものがいえないことをいう。
畑に蛤・・・・・・・・・・・・・・・・・畑に蛤がいるはずがないことから、不可能なこと、あり得ないこと。
蛤で海をかえる ・・・・・・・・・中国の諺で、蛤の貝殻で海の水を入れ換えようとするように、いくら努力しても無駄なこと
                 のたとえ。
雀海中に入って蛤となる
              ・・・・古代中国では雀が蛤に化身したと信じられていた。物事の変わりやすいことをいう。
貝合せ
源氏物語にも出てくる昔の貴族たちの遊びの一つである。
貝殻の内側2枚に1組の絵や文字が描かれた蛤の片方を伏せて、それに合うもう片方を探し当てるという、いわばトランプの「神経衰弱」のようなゲームである。
これは、ハマグリの左右の貝殻が同じ貝のものでなければ合わさらないという特性を生かした利用法。
桃の節句と蛤
雛祭りに蛤を供えたり貝殻で遊ぶのは、相性の良い相手が見つかります様にいう願いが込められている。
蛤御門
京都御所の西側にある門の名前。天明大火の後、寛政2年(1790)に新たに開かれた門ということで、「焼けて口開く蛤御門」と言われたことからの名。
この門は、元治元年(1864)に長州藩兵が会津藩や薩摩藩の兵と戦って敗れた「蛤御門の変(禁門の変、元治の変)」の戦場として有名。
日向碁石 
高級碁石の産地として知られる宮崎県日向に残る伝説。
  日向路を旅する1人の僧が、浜辺で蛤を採っていた老女に「とれますかな」と尋ねると、老女は僧に隠さず蛤を見
  せて分け与えたので、正直さに感心した僧は、「この海を小倉ヶ浜と名付け、いつまでも蛤が採れるようにしましょ
  う」と言い残して立ち去った。その後小倉ヶ浜村は産地となったが、この旅の僧はあの弘法大師であった。
この話に出てくるハマグリは朝鮮蛤で、最近は減産によって碁石の95%はメキシコ産のハマグリとのこと。ちなみに黒石は熊野の本那智黒(黒色珪質貢岩)である。
時雨蛤(しぐれ)
桑名の名産「時雨蛤」は、生姜を加えた佃煮で、商品名を考案したのは芭蕉の十哲の1人「各務支考(かがみしこう)」。地元で「煮蛤」と呼ばれていたのを、販路が広まったことから適当な商品名を要望され、時雨が降る時期に製造し始めることから命名されたとのこと。他にも命名についていろいろ説がある。

        桑名の殿さん ヤーンレ ヤットコャ ヨーイヤナ
        桑名の殿さん 時雨で茶々漬 ヨーイートナ アーレワ (アリャリャンリャン)
                             ヨーイトーコ ヨーイトーコナー       − 桑名の殿様 -
        桑名米穀取引所の隆盛時代の明治から大正にかけて、桑名の延師(相場師)の成金
        連中が浪速や新橋で豪遊した際に「桑名の殿様」と祭り上げられ唄われた。
ハマグリの生食をしないのは
ハマグリの身(腹足)の中にビタミンB1を分解するアノイリナーゼという酵素があり、これが人の腸内でB1を分解してしまい、B1欠乏症になる恐れがあるため。加熱することでアノイリナーゼが不活性化されるので、安心して食べられるようになる。
ハマグリの旨味
ハマグリの旨味成分は主にグルタミン酸、タウリン、アラニン、グリシンのようなアミノ酸で、アサリやシジミよりも多い。一方、貝類の旨味を特徴付けるコハク酸はアサリやシジミより少ないが、アミノ酸とのバランスがすばらしい。
ハマグリと健康
昔から、「蛤汁は小便の通じをよくし、口の渇きをとり、二日酔いをよくしてくれる」とされている。また胃腸の具合の悪い時などによく使われ、1日1杯の蛤汁はスタミナの強化と痔痛にも効果がある。
食べ方
ハマグリの旨味は身(腹足)よりも、殻に残っている体液にある。だから、身の中のエキスを吸い物のように溶出させたりして、身の味も体液の味も生かした料理が多い。加熱しすぎると身が硬くなるので、一煮立ちさせるぐらいで調理するように火加減を注意するのがポイント。
   焼きハマグリ
      ・・・・靭帯(じんたい)のところに出ている小さな突起を包丁で削ぎ取ると、殻が開いたとき汁がこぼれない。
         焼き加減は殻に天塩をして塩が乾いた頃。タレは酒2、味醂1の割合で混ぜる。
   潮汁・・・・婚礼の席では「貞女、二夫に見(まみ)えず」の意味を込めて、また、夫婦和合の象徴として供される。
         塩と薄口醤油、酒で味付けした汁にハマグリを入れたもので、雛祭りにも欠かせない。


       〜 清少納言が阿波の鳴門に隠居した時の歌 〜  
               たよりあらば 撫養の蛤 文見せよ
               はるか鳴門の 浦に住むとも


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