日本の旬・魚のお話

お問い合せ先
トラフグ
トラフグ
係  
部・課 企画管理部
主要扱い品目  
担当者  
TEL  
FAX  
 
 

日本の旬・魚のお話
日本の旬   魚のお話(秋の魚-22)
虎河豚(とらふぐ)
フグは、私達が日常触れる魚達とは一線を引き、魔性ともいえる特別な雰囲気を備えた魚で、まさに「ふぐに越すものなし」の格言通り美物の王だ。
美味しいのは「秋の彼岸から春の彼岸まで」といわれ、特に寒中が旬。35cmほどの2kg前後の2〜3年物が最も美味しいといわれている。
                  ふく汁や 鯛もあるのに 無分別      芭蕉
命名
古来、フグは「ふく」と呼ばれたようで、現在でも下関では「ふく」と呼ぶ。漢字では「布久」又は「鰒」と書いた。
口に含んだ海水を海底に吹き付けて餌を探す行動や、釣り上げた時、プープーと音を吹き出す姿から命名されたと思われる。
布久の表記は、平安時代に成立した漢和辞典「倭名類聚秒」に見られる。
鰒の表記は、江戸時代に盛んに使われるようになり、「和漢三才図絵」によると、怒腹脹(怒ると腹を脹らます)からだという。
現在使われている「河豚」の表記は、中国の長江などに棲息するメフグがブーブーと豚のように鳴くとか、また、中国では美味な肉を「豚」と呼び、河でとれる美味肉の意味からといわれている。ちなみに「海豚」はイルカである。
地方名
方言も他のフグとまじりあって複雑である。
モンツキやオオモン、ナゴヤフグなどと呼ぶ岡山をはじめ、モンプク(岡山・愛媛・大分)、テツ(兵庫・香川)、マフグ(兵庫・広島・大分)、クマタカフグ(秋田)など。
下関や北九州ではフグと呼ばず、福に通じる「ふく」と呼ぶ。「フグ」は不具に通じるからと忌み嫌う。
英名 Swell Fish(脹れる魚)
フグ目フグ亜科フグ科トラフグ属トラフグ
フグ目で500種、フグ科では120種ほどが知られている。日本には9属37種が棲息している。
食用可能な種類は、フグ亜科ではハリセンボン科3種、フグ科トラフグ属13種、サバフグ科3種、ヨリトフグ科1種、モンガラカワカギ亜科ではハコフグ科1種があり、合計22種。フグ毒を有するのはフグ科のみである。
分布
フグは温帯と熱帯の海、アジア、アフリカ及び南米の熱帯の淡水域に分布する。
日本でのトラフグは、本州中部以南から東シナ海に多く分布し、海底が砂、砂礫地となっている海域の中層から下層に棲息している。
             極道に 生まれて河豚の うまさ哉      吉井 勇
外形
胸ヒレの近くにある黒紋が特徴で、鱗がない代わりに背と腹には小さな棘が密生しており、腹が脹れると棘が立つ。また、人の指も食いちぎられる程の鋭いカミソリ状の歯が上下2枚ずつある。
腹ヒレは脹れたときに都合が悪いので存在せず、尻ヒレだけが白くて、あとのヒレは黒ぽい。
目の縁に輪状筋という組織があり、これが瞼の役目をして目を保護している。開閉のスピードは人間のように速くなく、非常にゆっくりで2秒ぐらいかかる。
トラフグはフグの中でも大きく、最大70cmになる。
生殖
産卵期は3〜5月。砂か砂礫になっている場所に沈性粘着卵を約60〜150万粒産む。メスは産卵を終えるとその場を離れるが、オスは残って卵を守ると同時に、新しく近寄ってくるメスの卵に放精する。
成長
孵化後、約1週間までは毒性を持ち、その後の1週間は毒性が無くなるが、再び約3週間後には毒性を持つようになる。
孵化直後は上下に1枚ずつしか歯がないため、動物性プランクトンを主食とするが、歯がそろうとエビや蟹の幼生を中心に食べ、すっかり成長するとウニや二枚貝までも食べる。
成長は1年目約800g、2〜3年で2kg。寿命は約10年と言われている。
フグは食いたし命は惜しし
産卵直前に最も毒性が強くなることから、ひとつには種族維持の為であろう。また、あまり速く泳げないので、体を脹らませてトゲを立たせつつ、体内からテトロドトキシン(TTX)という毒素を放出して身を守る為でもある。TTXは明治42年に田原良純博士が名付けた。
毒素は青酸カリの10倍で、サリンと同等の殺傷力を持っている。1匹のマフグで33人、トラフグで13人、ヒガンフグで11人、コモンフグで8人を殺す程の猛毒である。
             河豚は悪女で 蛸の味
養殖
昭和30年頃から始まり、50年頃より盛んになる。全国の種苗の50%は伯方島(愛媛県)で生産される。
100gになった頃と400g前後になった頃の2回、歯を切り折り、噛み合いを防ぐ。そして、翌年の秋から冬に1kg前後で出荷する。
入江を囲っての養殖フグは有毒だが、通常は毒素を持たないせいかお互い噛み合い、まともなヒレをしたフグは少ない。
また、病気にかかり易いため、生産歩留まりも悪い。フグの毒には沈静作用と病原菌に対しての防御作用があるのかも知れない。現在、痛め止めの医薬品としてこの毒素が応用されている。中国では末期ガンの患者に鎮痛剤として効果を上げている。
フグちょうちん
身の危険を感じると、口から海水、もしくはエラ穴から空気を吸い込み、食道の括約筋で袋の口をしっかりしめ、胃の中に体の3〜5倍も飲み込む。これは体にウロコや腹ヒレ、肋骨が無いという特異構造ゆえに出来る芸当。
漁場と漁法
外海物は日本海南部、黄海、朝鮮半島付近で獲れ、近海物は響灘や玄界灘産からシーズンが始まり、高値を呼ぶ。瀬戸内海産は周防灘、伊予灘、燧灘などで操業。近年は乱獲もあって漁獲量は落ち、遠州灘まで出漁する。
一本釣り、浮延縄、底延縄、底引網などがあるが、本格的な延縄漁法は徳山の粭島(すくもしま)の漁師が開発した。これにより、山口県のフグ漁は日本一となった。
南風泊(はえどまり)漁港は、全国の漁獲量の90%を占める2500トンほどの水揚げを誇る港である。
河豚食禁止令
室町時代以降にたびたび出された。武士は主君のために命を賭るもので、無駄な死は許されなかったのである。藩士が中毒死すると家禄を没収された。秀吉も朝鮮出兵の際、下関に参集した兵が中毒死して困り果てたといわれている。
河豚食解禁令
永らく続いた禁止令を解禁したのが伊藤博文である。
彼は、後の明治28年に日清講和条約の舞台ともなった下関の料亭春帆桜で禁止のフグを食べ、あまりの旨さに驚き、山口県知事原保太郎氏に命じて明治21年に全国にさきがけて解禁令を出した。東京は明治25年に、なんと大阪は遅れて昭和16年に解禁となった。
フグの旨味
普通、白身魚では遊離アミノ酸が多いが、フグはグリシンとリジンが多いので甘味も強く感じられる。また、コク味はクレアチンが引き出してくれる。皮にはコラーゲンがやわらかいゼラチンとなっている一方、硬いエラスチンはそのまま残っており、その適度の弾力性も楽しみの一つである。
フグの刺身
皿の模様が透けて見えるほど薄く切るのは、身がしまっていて、薄くないとよく噛み切れないため。普通、刺し身は「切る」というがフグは「引く」と言う。それはフグの身をまな板に直角に置き、手前に引いて薄くつくるため。
ケンダチ・・・・・・・・・刺身を盛り付ける時、板前は薄く切った身の一方の端を親指で押す、すると端がかすかに立つ。
            これを「ケンダチ」と呼ぶ。見た目にきれいに刺身を並べるには、ケンダチが同じ高さに揃ってい
            なくてはならない。このケンダチの姿を見れば、板前の腕前と健康状態がわかるという。
ボタビキ・・・・・・・・・明石では他地区よりやや厚めに引いたものを最も美味としている。
トウトウミ ・・・・・・・・皮の内側の皮膜を湯通ししたもので、身皮(みかわ)すなわち三河の隣は遠江(とうとうみ)の国
            だからというシャレ。
テッサ(鉄刺)・・・・・フグは、あたるとすぐ死ぬことから「テッポウ」の異名を持つ。そこからフグ刺しは「テッポウ刺し」
            と呼ばれ、それを縮めて「テッサ」と呼ぶ。
テッチリ・・・・・・・・・テッサと同様にフグちり鍋を「テッチリ」と呼ぶ。
ウグイス ・・・・・・・・最高の美味といわれる。人や所によって違うが、一つは歯のまわりの皮や肉の部分。または腹と
            尻ヒレの間の肉(スナズリ)をさす場合がある。
フグ酒
白子酒・・・人によってはフグで一番うまいのは白子(精巣)だという。コモンフグやクサフグ、ヒガンフグ以外は白子に
       毒がない。生の白子に煮えたぎるくらい熱い酒をそそぐと、どろっとしたドブロク状の白子酒になり、白子の
       旨味がとけだして格別な味わいとなる。中国では白子を「西施乳」と呼び、珍味の一つに数えられている。
       「西施」とは春秋時代の越の美女の名前で、西施の仕えた越王が呉に敗れ、西施は呉王のもとに送られ
       たが、呉王も西施の色香におぼれ、国を傾けてしまう。二つの国をも傾けさせた美女、その西施の乳房だ
       というのだから、白子の色艶、味の良さを讃えた言葉。
ヒレ酒・・・・カラカラになるまで干したフグのヒレをこんがりと焼き上げ、熱燗にそそぐ。
フグの子糠漬け
いつ誰が発明したのか、猛毒の塊の白子や真子(卵巣)を糠漬にした大胆奇抜な食べ物は、類稀なる食品である。
製品化することが出来るのは石川県のみである。塩漬1年、さらに糠と糀に漬け、イワシのイシルをさし汁に使って3年目に出来上がる。

             ふく汁の 我活きて居る 寝覚哉          蕪村
             五十にて ふくとの味を 知る夜哉         一茶
             あら何ともなきや きのふは過ぎて ふくと汁  芭蕉


ウィンドウを閉じる